キトの交換能力がどのレベルにあるのかは分からない。しかし、いきなり俺に向かって開いてきたということは、まだマタギの初心者なのだろう。開くというのは、自分の意識を開放して、相手に話しかけることだ。意思の交換は、感情を開いたり閉じたりして行うものだ。俺がキトに何か言いたければ、俺はキトに向けて感情を開く。考えていることを知られたくないときや、相手の声を聞きたくなければ、閉じれていればいい。中には閉じたり開いたりが出来ないやつもいる。無生物は基本的に、ずっと閉じている。だから、自分たちがしゃべれるということを知らない。黙っている分には、バカには見えないから、沈黙は金というのも、あながち間違いとは言い切れない。逆に四六時中開きっぱなしのやつもいる。山崎が水槽の中で飼っているミドリガメがそうだ。《腹が減った。暇だ。眠い》あいつの頭の中にあるのは、たいがいこの三つだ。お経のようにそればかり繰り返している。餌を食って暇になると、すぐに寝てしまうやつだ。腹が減った以外の言葉は不要だ。一度カメにそうツッコんでみたが、「おや?」という顔をしただけで、またお経が始まってしまった。うるさくて仕方ないので、すぐに閉じた。以来、カメの思考に対して開いたことはない。
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2009年11月13日金曜日
2009年11月8日日曜日
俺の名は勘九郎(4)
しかし、ある朝、何ものかが《助けて!》と叫ぶのが聞こえた。そいつは、線路の砂利の下にいた。人気のない新宿駅のホームの下で、プラチナのリングがキラリと輝いた。俺は声の主がそのリングだと直観した。最終電車に乗る前に、結婚指輪をはめようとした男が、うっかり落としたものに違いない。不倫の代償は、指輪の値段くらいではすまないだろう。空き缶からちぎれたプルトップを集めるような、貧乏くさい趣味は俺にはない。しかし、そのプラチナのリングが発した光は、不倫男にはふさわしくない清楚な輝きだった。俺はそいつを茶色い石の下から救ってやった。オレンジ色の頭をビルの向うに見せていた太陽が、いつの間にか黄色く強く輝いていた。すぐに始発電車がホームに入り、半分眠った酔客を体の中に吸い込んで西へ進んだ。
《あんたの声が聞こえたぜ》
俺がリングに話しかけると、リングは一瞬驚いたが、すぐに悟ったようで、そいつは俺に礼を言った。俺は無生物の意思を掬うコツに気がついた。その日から俺は何年も修行して、地上のすべてのものと話ができるようになった。リングはいま、俺が作った巣の中にある。あまり知られていないことだが、カラスは自分の巣をねぐらにしているわけじゃない。巣は、メスが卵をうみ、ひなを育てるための場所だ。寝るときは普通森に帰る。森の中で、集団で寝るのが、俺たちの習性だ。これは俺たちだけじゃなく、巣をつくる種類の鳥は、たいていそうだ。集団で寝ていれば、異変が起きたときに誰かが気づく。気がついたやつは、大声を出して仲間に知らせる。すると群れは一斉に森を飛び立ち、危機を逃れる。誰かが襲われたとしても、被害は最小ですむ。だが、俺はいつのころからか単独行動するようになってしまった。能力が高すぎて、カラス仲間で少々浮いてしまったことは否めない。
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《あんたの声が聞こえたぜ》
俺がリングに話しかけると、リングは一瞬驚いたが、すぐに悟ったようで、そいつは俺に礼を言った。俺は無生物の意思を掬うコツに気がついた。その日から俺は何年も修行して、地上のすべてのものと話ができるようになった。リングはいま、俺が作った巣の中にある。あまり知られていないことだが、カラスは自分の巣をねぐらにしているわけじゃない。巣は、メスが卵をうみ、ひなを育てるための場所だ。寝るときは普通森に帰る。森の中で、集団で寝るのが、俺たちの習性だ。これは俺たちだけじゃなく、巣をつくる種類の鳥は、たいていそうだ。集団で寝ていれば、異変が起きたときに誰かが気づく。気がついたやつは、大声を出して仲間に知らせる。すると群れは一斉に森を飛び立ち、危機を逃れる。誰かが襲われたとしても、被害は最小ですむ。だが、俺はいつのころからか単独行動するようになってしまった。能力が高すぎて、カラス仲間で少々浮いてしまったことは否めない。
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2009年11月5日木曜日
俺の名は勘九郎(3)
マタぐ、というのは、種族間をまたいで意思疎通できるということだ。普通は、ネコならネコ同士、カラスはカラス同士でしか会話できない。ネコにはネコ語。カラスはカラス語、というわけだ。マタげない連中にとって、ネコの言葉はニャアだし、カラスはカアだ。ところが、少し出来のいいやつになると、種族間をまたいで意思を交換することができる。さらに出来るやつは、植物とだって意思交換する。葉っぱにだって、命はあるのだ。そして俺くらいのレベルになると、石ころとだって交換できる。もちろん意思の交換、ということだ。「石の意思」なんてベタなことを、俺は言わない。したがって、プラスチックとだって鉄とだって、交換は可能だ。宇宙の始まりはカオスで、有も無も、生も死も、一体だということを知っていれば、鉱物にも意思があることくらい想像がつく。その仮説に自信はあったが、実践にはかなり苦労した。無生物の連中も、目の前で起きたことを理解しているし、記憶もしている。しかし、ほとんどのやつは、自分がしゃべれる事をしらない。聞く耳があることを知らない。だから、こっちからマタいで行くと、えらく驚かれる。しょんべんで目を覚ました冬眠中のカエルが、となりで寝ている蛇に気づいてしまったときのような顔をする。考えてみれば、やつらにとってはファーストコンタクトだ。それくらいの衝撃があってもよろしい。俺が、おい、と声をかけてやっても、連中はそれがカラスの意思だとは思えない。だれに返事をしていいのか分からず、キョトンとしている。ひょっとしたら、天の声か何かと勘違いしているのかもしれないと考えたこともあった。所詮、しゃべることは出来ないのだと思っていた。
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2009年11月2日月曜日
俺の名は勘九郎(2)
《珍しいわね、あんたみたいなタイプに部屋の中で会うなんて。あたしの名前は、キト。しばらくお世話になるみたいね。よろしく。で、あんたの名前は?》
飼い主と違ってキジトラの方は、少しは礼儀を知っているようだ。キトの頭をなでながら、飼い主の女が俺の顔を覗きこむようにして言った。
「ネコとカラスって相性いいの?」
いいわけがなかろう。やっぱり山崎の連れだ。飼いネコでも鳥を食うやつがいる。狩りを楽しむだけで食うことをしない、キャッチアンドリリース派のネコもいる。まあ、俺たちカラスは、ネコに食われるようなドジは踏まない。が、それでもネコとひとつ屋根の下に暮らすのは気持ちのいいもんじゃない。おい山崎、なんとかしろ、と言ってみたが、人間にはどうせカアとしか聞こえていないのだ。かわいそうに。人間には言葉があるというが、そんなものは嘘の塊だ。人間以外の存在は、いわゆるテレパシーで意思を交換している。だから、キトの言うことを俺は理解できるわけだ。俺はキトに答えた。
《俺の名は、堪九郎。この鳥かごをねぐらにして2年になる。この部屋のベランダに居つくようになったのは3年前で、山崎との付き合いはもっと古い。昼間は勝手にやっているが、部屋にいるときは、カゴの中だ。お前さんとかち合うつもりはないから、せいぜいよろしく》
《人間に飼われるカラスなんて、初めて見たわ。ところで、あんたいつからマタげるようになったの?》
《そんなものは、生まれたときからだ》
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飼い主と違ってキジトラの方は、少しは礼儀を知っているようだ。キトの頭をなでながら、飼い主の女が俺の顔を覗きこむようにして言った。
「ネコとカラスって相性いいの?」
いいわけがなかろう。やっぱり山崎の連れだ。飼いネコでも鳥を食うやつがいる。狩りを楽しむだけで食うことをしない、キャッチアンドリリース派のネコもいる。まあ、俺たちカラスは、ネコに食われるようなドジは踏まない。が、それでもネコとひとつ屋根の下に暮らすのは気持ちのいいもんじゃない。おい山崎、なんとかしろ、と言ってみたが、人間にはどうせカアとしか聞こえていないのだ。かわいそうに。人間には言葉があるというが、そんなものは嘘の塊だ。人間以外の存在は、いわゆるテレパシーで意思を交換している。だから、キトの言うことを俺は理解できるわけだ。俺はキトに答えた。
《俺の名は、堪九郎。この鳥かごをねぐらにして2年になる。この部屋のベランダに居つくようになったのは3年前で、山崎との付き合いはもっと古い。昼間は勝手にやっているが、部屋にいるときは、カゴの中だ。お前さんとかち合うつもりはないから、せいぜいよろしく》
《人間に飼われるカラスなんて、初めて見たわ。ところで、あんたいつからマタげるようになったの?》
《そんなものは、生まれたときからだ》
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2009年11月1日日曜日
俺の名は堪九郎(1)
一
「なにこいつ?」
挨拶もなしに女は言った。俺がその女を見たのは、そのときが初めてだ。したがって、女の言う「こいつ」とは俺のことだ。初対面の相手に向かって、なにこいつ、とはどういう了見だ。俺はその女の両目を黙って見据えた。しかし、女は俺と目を合わせる気もないらしい。ならば俺の方から声をかける必要もあるまい。それにしたって、どなた? くらいの言いようがあろう。どちら様?と言えればまあ合格だが、そこまでは期待していない。どうせ山崎が連れてきた女だ。上品な人間じゃないことは確かだろう。山崎というのは、俺の目の前にいる色白で痩せぎすの男だ。裸になれば、28歳の男にふさわしい筋肉が少しはついているのだが、それにしたって、どうみてもやさ男だ。人間の中に芯てものがない。心根の優しいやつではある。優しいから女にはもてる。女には多少もてるのかもしれないが、俺から見れば、ただの甘ちゃんだ。甘ちゃんの3流サラリーマンだ。
山崎は俺の方をちらっと見てから、女に言った。
「こいつはね、堪九郎っていうんだ。けど歌舞伎はやらないぜ」
くだらない冗談で、山崎は俺のことを女に紹介した。
「うまいこというわねえ。堪九郎だけに、歌舞伎ときちゃった」
本気か? 本気で笑ったのか? まあいい。どうせ山崎の連れだ。頭の程度だってしれている。
「ちょっと気味が悪いかもしれないけど、慣れれば平気だから。それにびっくりするくらい頭がいいんだぜ」
気味が悪いと思うか、カッコいいと思うかは、主観の問題だ。頭がよさそうなことくらい、この女にも想像がつくだろう。しかし、山崎はいつまでこの女をここに置いておくつもりなのだ。キャスター付きのド派手なピンクのスーツケースを、女は山崎に運ばせた。そして山崎は、俺に断りもなく、その目障りなスーツケースを俺の足元に置いた。しかも、縦に置いたスーツケースの上には、その女が連れてきたネコが乗っている。茶色地に黒縞模様のキジトラ猫だ。あまり太ってはいない。
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挨拶もなしに女は言った。俺がその女を見たのは、そのときが初めてだ。したがって、女の言う「こいつ」とは俺のことだ。初対面の相手に向かって、なにこいつ、とはどういう了見だ。俺はその女の両目を黙って見据えた。しかし、女は俺と目を合わせる気もないらしい。ならば俺の方から声をかける必要もあるまい。それにしたって、どなた? くらいの言いようがあろう。どちら様?と言えればまあ合格だが、そこまでは期待していない。どうせ山崎が連れてきた女だ。上品な人間じゃないことは確かだろう。山崎というのは、俺の目の前にいる色白で痩せぎすの男だ。裸になれば、28歳の男にふさわしい筋肉が少しはついているのだが、それにしたって、どうみてもやさ男だ。人間の中に芯てものがない。心根の優しいやつではある。優しいから女にはもてる。女には多少もてるのかもしれないが、俺から見れば、ただの甘ちゃんだ。甘ちゃんの3流サラリーマンだ。
山崎は俺の方をちらっと見てから、女に言った。
「こいつはね、堪九郎っていうんだ。けど歌舞伎はやらないぜ」
くだらない冗談で、山崎は俺のことを女に紹介した。
「うまいこというわねえ。堪九郎だけに、歌舞伎ときちゃった」
本気か? 本気で笑ったのか? まあいい。どうせ山崎の連れだ。頭の程度だってしれている。
「ちょっと気味が悪いかもしれないけど、慣れれば平気だから。それにびっくりするくらい頭がいいんだぜ」
気味が悪いと思うか、カッコいいと思うかは、主観の問題だ。頭がよさそうなことくらい、この女にも想像がつくだろう。しかし、山崎はいつまでこの女をここに置いておくつもりなのだ。キャスター付きのド派手なピンクのスーツケースを、女は山崎に運ばせた。そして山崎は、俺に断りもなく、その目障りなスーツケースを俺の足元に置いた。しかも、縦に置いたスーツケースの上には、その女が連れてきたネコが乗っている。茶色地に黒縞模様のキジトラ猫だ。あまり太ってはいない。
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『俺の名は勘九郎』 について
試験的に書いたものを公開しております。
推敲をほとんどしていない状態なので、いろいろな不備があると思います。
・誤字、脱字が多い。
・ストーリーの時間軸に矛盾がある。
・ストーリーの中の制約条件(物語の中のルール)に矛盾がある。
・過去の展開とつながらない展開が突然起こっている。
などが考えられます。
オリジナル原稿はストーリーの大筋しか決めていません。従って、ストーリーの大幅な変更を行った場合は、原稿の本文はすべて修正していますが、ここに公開したものはたぶん修正できないと思います。
無事に完成すれば、文学賞へ応募することがあるかもしれまん。
その文学賞がインターネット上の公開を禁止している場合は、更新を中断したり、削除することがあるかもしれません。
また、あまりに拙い小説もどきの文章を公開していることの恥ずかしさに気づいた場合は、すぐに削除してしまうかもしれません。
(下手な文章にも発生する)著作権は、筆者に帰属しています。
興味を持って読んでいただけるかたには、以上をご理解いただければ幸いです。
推敲をほとんどしていない状態なので、いろいろな不備があると思います。
・誤字、脱字が多い。
・ストーリーの時間軸に矛盾がある。
・ストーリーの中の制約条件(物語の中のルール)に矛盾がある。
・過去の展開とつながらない展開が突然起こっている。
などが考えられます。
オリジナル原稿はストーリーの大筋しか決めていません。従って、ストーリーの大幅な変更を行った場合は、原稿の本文はすべて修正していますが、ここに公開したものはたぶん修正できないと思います。
無事に完成すれば、文学賞へ応募することがあるかもしれまん。
その文学賞がインターネット上の公開を禁止している場合は、更新を中断したり、削除することがあるかもしれません。
また、あまりに拙い小説もどきの文章を公開していることの恥ずかしさに気づいた場合は、すぐに削除してしまうかもしれません。
(下手な文章にも発生する)著作権は、筆者に帰属しています。
興味を持って読んでいただけるかたには、以上をご理解いただければ幸いです。
2009年9月22日火曜日
それなりに
昨年の10月25日、巨人 対 中日のクライマックスシリーズをテレビで見たあとにこう書きました。
「10年に一度くらい、魂をゆさぶられるようなシーンに出会いたいのか? 毎年確かにやってくるそれなりの興奮に満足すべきなのか?」
セ・リーグの3位争いを見ながら、それなりに興奮しています。阪神・広島・ヤクルトによる三つ巴の戦いが白熱しています。選手の公式ブログには、スポーツ新聞やテレビのニュースより、緊迫感が伝わってくるものもあり、戦っている選手の熱さを感じることができます。
それでも、首位と25ゲーム差の5位のチームに、この時期でも日本一の可能性がある制度って、どうなのだろうと思ったりもして。
短期的な視野でみるとシーズンの終盤までリーグ戦を盛り上げる効果があると思いますが、長期的には人気の凋落を招くような気がします。
(更新が滞っていますが、来てくださってありがとうございます)
「10年に一度くらい、魂をゆさぶられるようなシーンに出会いたいのか? 毎年確かにやってくるそれなりの興奮に満足すべきなのか?」
セ・リーグの3位争いを見ながら、それなりに興奮しています。阪神・広島・ヤクルトによる三つ巴の戦いが白熱しています。選手の公式ブログには、スポーツ新聞やテレビのニュースより、緊迫感が伝わってくるものもあり、戦っている選手の熱さを感じることができます。
それでも、首位と25ゲーム差の5位のチームに、この時期でも日本一の可能性がある制度って、どうなのだろうと思ったりもして。
短期的な視野でみるとシーズンの終盤までリーグ戦を盛り上げる効果があると思いますが、長期的には人気の凋落を招くような気がします。
(更新が滞っていますが、来てくださってありがとうございます)
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