2012年1月9日月曜日

俺の名は勘九郎(80)

「せっかく、研修に来てもらったんだ。ビシビシ鍛えてやるから、覚悟しておくように」
「ひょっとして、代理店から派遣された研修社員だと思ってます?」
「その通り、ってのは冗談だが、しっかり教育して、立派な神様になってもらうよ。うちにいる間は、おれの部下だ。お客様扱いもしないから、覚悟しとけよ」
「ハイ!」
山崎と野々村は、声をそろえた。
「うちの理念と厳しさを知ってもらえば、長く付き合う価値のある会社だと分かってもらえるってことさ」
3日間の座学で、ヨウザンの製品やものづくりの工程を学ぶと、4日目には、工場の安全規則を読まされ、現場で作業する際の安全衛生に関する知識も詰め込まれた。そして5日目から、山崎と野々村は、別々の作業場に配置され、実務に携わることになった。
山崎が連れていかれたのは、ストック・ヤードと呼ばれる部材の受け渡し現場で、パイプや付属の部材などが頻繁に出入りする場所だった。研修ではあったが、山崎に与えられた仕事は、ヨウザンの社員が実際に行っているものと同じで、現場に出て最初の日は、尾藤がとなりについてくれた。外部から搬入される部材は、数が正確にそろっているかを確認する必要があった。また、それらの材料が適切な大きさや形であるかを確認するのもストック・ヤードでの仕事だ。受け入れ検査と呼ばれるその確認作業は、入庫数量の20分の1を抜き取って、実際に寸法を測定する仕事だ。パイプの長さをメジャーで測り、肉厚とよばれる管の厚さは、マイクロメーターという名の特殊な工具で計測した。鉄工問屋から運ばれてくるパイプには、納品書と検査表がついていて、検査表には、一本一本の寸法が記載されていた。
「同じパイプでも、微妙にサイズが違うんですね」
山崎は、ベテランの船越という社員に話しかけた。


「続きが楽しみ」と思ったら押して下さい。