2013年9月21日土曜日

俺の名は勘九郎(112)



前日からの雨はあがって、荷受けヤードに朝の光が差し込んでいた。ピラミッド型に積まれたパイプの上段から、オレンジ色の光がはね返った。疲れてはいたが、昨日より何倍も明るい気持ちで、山崎は検査台へと歩くことができた。
「船越さんが来てくれて、めちゃくちゃ気分が楽になりました」
「雨の夜に、一人でやるのは、かなりきついよな」
「正直、へこみました」
「これ以上、不良がでないといいな」
船越が手際よくゲージのメモリを読み、山崎は記録用紙に数値を書き込んだ。管の長さを測るときは、山崎が片側に立ってメジャーの端を押さえ、船越が反対側まで引っ張って歩く。一人の時の半分以下の時間で、一本を計測することができた。
太陽が頭上に来る前に、46本を計測することができた。不具合はひとつもなかった。通りを挟んで、5軒ほど先にある定食屋から、中華風の油の匂いが漂ってきて、山崎は空腹を感じた。向かいにある公園では、ぶらんこに乗った男の子の背中を、母親が「それっ」と言いながら押していた。真っすぐに伸ばした脚が地面と水平になるくらいまで上がると、小さな男の子は「もういい、もういい」と必死になって母親に訴えた。一瞬だがぼんやりとそれを眺めていた山崎は、別の世界がそこに広がっているような気がした。
「あと1本やったら、昼にしようぜ」
船越に言われて我に返った。
30分で弁当をすませ、早めに戻ろうとする山崎に尾藤が声をかけた。
「何本終わりました?」
「あと93本です。午前中のは、全部大丈夫でした。」
「夕方の5時までやったら、上がって下さいよ。山崎さんを二晩も泊めるわけにはいかないから」
「終わるまで、やらせて下さい。夜には終わります」
「下手すりゃ、帰れなくなりますよ。三日も同じパンツはけないでしょう」
言われて気づいた山崎は、船越の方も見ながら、
「コンビニで買ってきます!」
と言って、正門に向かって走りだした。尾藤が何も言わなかったので、山崎は最後までいていいものだと解釈した。


「続きが楽しみ」と思ったら押して下さい。