2014年1月25日土曜日

俺の名は勘九郎(117)


リーニエンシーとは、談合やカルテルに関与する企業が、不正を自ら認め、摘発される前に自主申告することによって、制裁金や刑事告発を免れることができる制度だ。自主申告した企業は、制裁を免除されるが、申告しなかった企業は罰せられる。談合から抜けた企業だけに大きなメリットがあるその制度は、仲間を裏切る “密告制度”と呼ばれた時期もあった。浅野ソーラーが真っ先にその制度を使ったことを、山崎や一般の社員は、少し前の新聞報道で知った。村上製作所と鳥海ウィンドパワーの2社が、公正取引委員会の摘発を受けたというニュースは、産業新聞の小さな記事になっただけで、社会的なインパクトはほとんどなかった。大手企業の談合事件に食傷気味だったマスコミにとって、中小企業の街路灯メーカーが起こした談合事件など、ニュースにする価値もなかったのだ。
産業新聞の記事を読んだ山崎は、それでも初め、ほっとした思いだった。小さな記事とはいえ、新聞沙汰になってしまった事件の中に、浅野ソーラーの名前がなかったからだ。しかし、街路灯工事の関係者ならそれが不自然であることに、すぐに気づくだろうと山崎は思った。自然エネルギーを利用した街路灯のトップメーカーは、浅野ソーラーだったし、村上製作所と鳥海ウィンドパワーが談合したとされる入札には、浅野ソーラーも参加していたからだ。
仲間を裏切って生き残りを図ろうとした会社と言われるのだろうか、それとも、業界の慣行を捨て談合と決別した勇気ある会社と思われるのだろうか。新聞の隅に目を落としながら、山崎はそんなことを考えていた。


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