2011年10月22日土曜日

俺の名は勘九郎(75)

「やる気のないオッサンって感じの声だったな。上野のセクハラって、エナジルの人事や建設の人権啓発課でも問題になってるらしいんだ。『でも、だれも鈴をつける人がいないんですよー。もう一度、人権の方に頼んでみますから、何かあったらまた電話して下さい』で終わり。ありゃあ、なんにもしないな」
「意味ないっすね」
「全然ない」
「そうだ、探偵とか雇ったらいいんじゃないですか?談合を仕切るフィクサーと会ってるとこの写真とか撮れますよ。それ見せて脅したら、談合やめるんじゃないっすかね」
「フィクサーなんていると思う。鳥海と村上の営業に電話して、それで終わりじゃねえの。メールとかFAXなんて絶対使わないだろ。会社の携帯も使わないよな。それに実行犯は猪俣だぜ。上野を追いかけても、不倫の現場写真くらいしか撮れねえよ」
「それはそれで、痛いじゃないっすか」
「まあな。でも何かみみっちいんだよ。それに不倫写真じゃ、ちょっと注意されて終わりだろ。エナジルの社長ぐらいじゃ、週刊誌ネタにもならねえしな」
「外に出すのは、やめましょうって」
冗談だよ、と再び言った堀田は、頬の下に左の手を当て、山崎の座る向うの扉から入って来る客をぼんやりと眺めた。
それから一ヶ月後、堀田は7年間勤めた浅野ソーラーを去っていった。


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2011年10月7日金曜日

俺の名は勘九郎(74)

「あんなとこに電話したら、会社のブラックリストに載せられるだけだろ」
「そうですよねえ。文句言ったやつが、人事部とかに目つけられるだけですよね」
「実は俺、あれに電話したんだよ」
「ええっ! いつですか?」
「辞めるって決める少し前。ああいう制度が機能してるんなら、徳原グループもまだ見込みあるかもって。思った俺がバカだった」
「談合のこと、内部告発したんですか?」
「証拠もねえのに言えねよ。それに、コンプライアンス委員会が信用できるとこかも分かんなかったしな」
「じゃあ、何て電話したんですか」
「上野社長のセクハラで困ってる女性がたくさんいますって、公衆電話からかけてみた。匿名でな」
「意外と慎重ですね」
「うるせえな。こう見えても小心者なんだよ」
「どんな人が電話に出たんですか?」


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