2012年8月30日木曜日

俺の名は勘九郎(93)

《本当ですか?その森に連れて行って下さい》
《森にねぐらがあるわけじゃなんだ》
《どこかの公園ですか?どこへでも行きます。キトさんのところまで案内して下さい》
《公園でもなくて、俺は今、鳥かごに住んでいるんだ》
《鳥かご!?》
《小型のサルも飼えるってのがウリの、ちょっとした広さだぜ》
《広さの問題っていうか、人間に飼われているカラスなんて初めて聞きました》
《ひょんなことから、そこに住むことになってな。まあ生き方いろいろってことだ》
《今度、連れて行ってくれませんか?どうしてもキトさんに会いたいんです》
《ネコに恋する仔犬ってとこか》
《そんなんじゃありません!ただ会って、いろんなことが出来るようになったぼくを見てもらいたいのです》
《冗談だよ。すぐ本気にするところは、やっぱり子どもだな。これから来たって構わないけど、キトも昼間はいないかもしれないな》
《ぼくもここの人に挨拶していきたいので、また今度にします》
《おいおい、連れて行っても一緒に住めるとは限らないぜ。あの狭いマンションにカラスと猫と、犬までは無理だろうな》
《いいえ、そういうつもりじゃないんです。ここにいると危険なので、ぼくはいずれ出なきゃいけないんです》
《それほど危険な公園には見えないけどな。きれいに整備されているじゃないか》
《それがいけないのです。人間はこの公園から汚いものを一掃しようとしているのです。野良犬もホームレスも、ここから追い出されそうです》
《そう言えば、最近、都会の公園じゃあ、人間に飼われた犬しかみたことがないな》
《ぼくらは、捕まったら保健所で殺されてしまいます。ぼくにも翼があったらいいのに》
《羽が生えたら、ハトにでもなることだな。真っ黒いと人間には嫌われるぜ。犬の方がよっぽど優遇されてると思うがね》
《飼い犬だけですよ。でもぼくは首輪をされたり、服を着せられたりなんて、まっぴらです》
《それが自然さ。鳥かごに住んでる俺が言うのもなんだがな》
《どうして…、えーと、そういえばまだ名前を聞いてませんでしたね。ぼくはコタローです》
《俺の名は勘九郎。よろしくな》



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2012年8月19日日曜日

俺の名は勘九郎(92)

《これは失礼しました。だが、あいにく、俺のしゃべり方は誰に対してもこうでね。お前が王様ライオンの息子だとしても同じさ》
《カラスの一族というのは、みなさん、そうなのですか!》
《まあ、そんなに突っかからないでくれよ。これは単に俺流だ。それにしても仔犬のうちからマタげるなんて、たいしたものじゃないか》
《ずいぶんと上から目線ですね。カラスが犬より偉いかのようです》
《その考え方は間違っているぜ。カラスと犬のどちらかが偉いなんてことはない。人間だって、草花だって、どの生きものだから偉いなんてことはないんだ。それに俺は、自分が偉いなんて思ったこともない。たまにしかな》
《共感しそうになって、損しました。それとも、てれ隠しですか》
《どっちでもいいさ。それにしても、しっかりしてるな。まだ子供だろ》
《独りで生きてると、いろいろ覚えなきゃいけないんです》
《飼い犬じゃなさそうだが、親もいないのか?》
《どこで生まれたのかは知りません。人間に飼われていたことはあります。シェットランドシープドッグだと思われていたうちは良かったのですが、血統証に偽りがあったとかで、1歳になる前に捨てられました》
《ふん、血統にしか興味のない最悪の人間だな》
《外にでたおかげで強くなれました。いっぱい勉強もしました》
《マタギも独りで覚えたのかい?》
《キトさんから教えてもらいました。キトさんというのは、この公園で知り合った猫です》
《キト?キジトラ模様のメス猫かい?》
《キトさんを知っているのですか?ぼくはもう、何カ月も会っていません。キトさんに、ぼくの成長を見てもらいたいなあ。でも、この公園には来なくなってしまいました》
《彼女なら俺のウチにいるぜ》



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