2010年6月20日日曜日

俺の名は勘九郎(35)

「6億7千2百万円+設計費で、7億円くらいはあるかもしれません」
「7億円の予算があって、競争する相手がいなくって、それで6億2千万円で入札するっていうのか!」
「そうやって浅野ソーラーは、お客様からの信頼を築いてきたのです。私がいうお客様とは、市町村などの自治体だけではありません。夜の街を歩く市民ひとりひとりなのです。彼らが応援してくれるから、独占入札になっても文句を言われないのだと信じています」
「もういい。7億9千万円で入れろ。どうせ、お前じゃ予算も知らないんだろうと思って、俺が調べさせた。市は予備費をちゃんとみといてくれたよ」
「そんなことをしたら、今まで協力してくれた市の担当者に迷惑をかけてしまいます。せめて、7億円にさせて下さい」
「これは、業務命令だ。違反することは許さない!」
「それは出来ません。綱川社長に確認させて下さい」
「好きにしろよ」
その場で綱川の携帯に電話した浅野は愕然としました。すべて上野の指示に従うようにと言われたのです。浅野は、約束が違うと食いさがりましたが、綱川の言葉は変わりませんでした。浅野ソーラーが浅野の意思で動くなら、徳原エナジルも綱川の命令に従う必要はないのだな、と上野が綱川に迫ったそうです。
結局、浅野は7億9千万円で入札せざるを得ませんでした。浅野を信用していたS市の担当者は激怒しました。彼が8億円近い予算を組んでいたのは、7億円程度での落札なら、予定価格と呼ばれる予算に対して、90%を切る落札価格になるからでした。結果的に予定価格に対する落札率は、99%になってしまいました。浅野の思惑通り、6億2千万円なら、78%の落札率になっていたはずです。


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2010年6月12日土曜日

俺の名は勘九郎(34)

S市の「再開発地域街路灯設置工事」入札日の前日のことでした。徳原エナジルの上野が、浅野のいるフロアにやってきました。
「ちょっと来い!」
浅野の机の前に立った上野はそう言うと、まるで自分の部屋であるかのように社長室に入っていきました。
「明日の金、いくらにするつもりなんだ?」
「6億2千万円にするつもりです。それでも今回は7%以上の利益は出せます」
「バカヤロウ!誰が7%でいいなんて言ったんだ」
「社長である私の判断です」
「お前の判断なんていらねえんだよ。徳原グループの目標利益率がいくらだか言ってみろ」
「営業利益率で10%であることを存じておりますが、浅野ソーラーの、特にウィンディーサニーの販売戦略については、私に委ねられています」
「俺が、許さないといってるんだよ」
そう言いながら、上野はポケットからカード型の電卓を取り出しました。
「なんだと!6億2千万じゃ、一台あたり260万にもならないじゃないか。定価だって280万円だろう!」
「あの定価表は、設計費を別にして、1台を単品で販売するときの目安ですから、今回のように240台も同時に発注してもらえる場合は、格段に安く提供できます」
「バカにするな!それくらいのことは分かってる。だいたいお前、市の予算を知らないのか?」
「280万円×240台、プラス設計検討費用くらいは見込んでいるかもしれません」
「それはいくらだと聞いてるんだよ」


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2010年6月6日日曜日

俺の名は勘九郎(33)

市の委託を受けて公共事業の設計書を作るのは、本来、専門のコンサルタント会社なのですが、コンサルタント会社にもその能力はありません。浅野ソーラーはコンサルタント会社に設計書づくりの手伝いを頼まれていたわけです。
街路灯の設置工事について、S市は公募型の競争入札を実施しました。公開された設計書をみて、明るさ保証のできる会社は浅野ソーラーしかないことは、業界の関係者ならすぐに分かります。結局、応募した会社は浅野ソーラーだけでした。
最初からウィンディーサニーが欲しいのだから、S市は直接浅野ソーラーに仕事を頼めばいいと思うのですが、その辺が公共事業の難しいところなのでしょうね。もちろん、浅野がS市の担当者に賄賂を渡すようなことはありません。ウィンディーサニーを適切な値段で提供し社会に貢献する、それが、浅野ソーラーの経営方針でしたから。
徳原グループ入りした浅野ソーラーは、本社を品川にある徳原ビルに移していました。社長室は有りましたが、個室に入ることを嫌っていた浅野は、いつも社員の顔をみながら、仕事をしていました。朝の光を窓から背中に受けて、社員の横顔が輝くのを見るのが、浅野は好きだったのです。


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