2011年3月7日月曜日

俺の名は勘九郎(58)

「2.5が係数ですよ」
「えっ!?」
「それは私がつくったブログです。つくったと言っても、グーグルのテンプレートに文字を入れただけですけどね」
「ミカりんもアキラも架空の人物ということですか?」
「恥ずかしながら、ミカりんというのは、うちの娘のニックネームです。アキラ君というのが、どうもボーイフレンド以上の関係のようでしてね。このブログはうちのパソコンでつくりました。万が一、自宅のパソコンが押収されても、カムフラージュになるでしょう。美香がこのブログの存在を知ったら、たぶん私は殺されますけどね」
千葉はそこで、いたずらっぽく笑った。
「談合って、そこまで慎重にやらなきゃいけないものなのですか」
田中はうなるように言った。
「やるなら、刑務所に入ることも覚悟してやるべきです」
千葉の目は、もう笑っていなかった。
「私の認識が甘かったようです」
田中が不安そうな顔をしていると、千葉が押し込むように続けた。
「この話は、浅野ソーラーの社長である田中さんが持ちかけたのですよ。あなたから電話があったとき、私は考えました。弱肉強食の世の中がいいのか、談合で安定する世の中がいいのか。都合のいい理屈に聞こえるかもしれませんけれど、自己正当化のために言っているわけではありません。談合で逮捕された社員を会社が守ってくれる時代じゃないですからね。懲戒解雇で、退職金も払われないリスクを考えたら、やってられませんよ。それでも勝ち負けだけの市場原理がすべてじゃないように私は思うのです。だから証拠が残りにくい方法を必死で考えました。特殊事情を話しあうために集まったり、携帯でやりとりするのは、まっぴら御免です」


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