2011年7月3日日曜日

俺の名は勘九郎(67)

市役所の会議室に二人きりだったので、つい気安くなりがちだったが、それでも蔵島や部内の先輩としゃべるときよりはいくぶん気を使いながら、山崎は話した。
「はあ・・・?」
いきなり何を言い出すのかという顔の神田に、山崎はシャワールームのカーテンが尻にペタリと張り付く現象のことを説明した。
「ああ、それなら『ベルヌーイの定理』で説明できるんじゃないかな」
「エッ!もう誰かが発見しちゃってる法則なんですか?」
「スイスの人だったかな。シャワーを出すと空気の流れるスピードが変わるから、それが気圧に影響して起こる現象だと思うけど、気になるんだったら、調べてみなよ」
「そうだったんですか。世紀の大発見かと思ったのに。」
「江戸時代に生まれてたら、山崎さんの名前が物理の法則に付いてたかもしれないね」
「いや、ビジネスホテルがないと無理なんで、江戸時代じゃダメだったと思います」
「ハハハ、もっともだ」
「それより神田さん、さっき言ってたリゾートランドプランでしたっけ?それって観光地開発かなんかですか?」
「山崎さーん、営業マンなんだから、そこにすぐ食いつかないと」
「すいません。昨日の夜からずっと興奮してたもんで」
「しょうがないなあ。平成のベルヌーイに敬意を表して、教えてあげようか」
そう言って神田は、F市が計画しているリゾートランドプランのヒントを山崎に教えた。それはまだ具体化する前の段階だったが、山崎は初めて自分の手で掴みつつある都市開発の情報に、もう一度胸を震わせた。


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