2011年8月7日日曜日

俺の名は勘九郎(70)

慌てて会議室を飛び出した田中は、廊下に出るとすぐに携帯を取り出して蔵島に電話した。しかし、携帯からは「電源が入っていないためかかりません」というアナウンスが返ってくるばかりだった。田中は垣内という名の秘書に電話して、蔵島がどこにいるかを調べさせると、宮崎へ向かっていて、今ごろ飛行機の中だろうということだった。
しかたがなく田中は「山崎がいたら、いそいで8階の大会議室に呼んでくれ」と垣内に頼んだ。垣内は慌てて山崎に声をかけ、山崎は徳原グループの全体会議だとも知らず、8階の会議室へ向かった。
ノックして会議室の扉を開けた山崎は、ずらりと並ぶ役員たちの顔を見て、一瞬たじろいだ。それが、徳原建設の役員やグループ会社の社長たちだとは知らなかったが、赤茶色のテーブルがコの字に型に並ぶ会議室で、神妙な顔をして座っているのが、お偉いさんたちだろうということは山崎にも想像がついた。後方のスクリーンに一番近い席で田中が手を振ったので、山崎は、スクリーンと正対して座る役員の方を見て一礼すると、田中の方へ歩きだした。
「こんな小僧を中に入れるな!」
田中と対角の位置に座っている上野が、一喝した。
「蔵島専務が出張中なので、Fプロジェクトに一番詳しい彼に説明してもらおうと思ったのですが…」
「外で聞いて、お前が報告すればいいんだ!」
上野には、自分の周りにはべるものを一定の役職者以上にすることで、カリスマ性を演出しようとするところがあった。
「まあまあ、上野さん。もうそこに来ているのですから、若い人に発表してもらうのも、たまにはいいでしょう」
トップの綱島がとりなしたので上野が黙ると、田中は山崎にプロジェクト概要を説明するように促した。


「続きが楽しみ」と思ったら押して下さい。

0 件のコメント:

コメントを投稿