2011年8月13日土曜日

俺の名は勘九郎(71)

山崎は、いきあたりばったりで無計画な性格だったが、それだけにと言うべきか、突然訪れた状況に対して物怖じするタイプではなかった。しっかり準備して本番に臨むことが習慣になっていないため、大きなポカをすることもあったが、それは若者に共通の性質なのかもしれない。役員たちが集まる会議で、突然、プロジェクトの概要説明をすることになったときも、部屋に入った一瞬こそひるんだものの、すぐに平常の落ち着きを取り戻した。それは知らないことや出来ないことを取り繕おうとしない山崎の気質がそうさせているのだった。

もしそのとき、山崎の頭の中にプロジェクトの概要が入っていなければ、山崎は恥じることなく「忘れました」と言ったはずだ。忘れてしまったことや知らないという事実を、山崎はあっけらかんと白状してしまう。それで山崎を愚か者とみなす人間もいるが、相手に悟られないように注意して、知らないくせに相槌をうち、その場をやり過ごそうとする人間がどれだけ多いことだろう。俺の観察によれば、山崎のような潔さを持っている人間は少数派だ。

唐突に会議に呼び出された山崎は、資料も手帳も持たずにやってきたが、自分が力を入れて営業した案件だけあって、プロジェクトの概要や実現までの課題などは頭の中に入っていた。山崎はそれをよどみのない口調で説明した。

説明を聞いている途中で上野は一度、フンと鼻をならしたが、それから後は無表情だった。


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