2011年12月17日土曜日

俺の名は勘九郎(79)

「『倹約と変革』が鷹山の改革なんだ。それがうちの社訓にもなっているくらいでね」
「そう言えば『お客様は神様だが、王様ではない』と書いた張り紙がありましたけど、あれも社訓なんですか」
職場の壁に貼ってあったという紙に山崎は気づかなかったが、野々村が尋ねた。
「気づいたかい。あれは先代の社長の言葉でね。浅野さんの人は違うけど、下請けイジメを生きがいにしているような人も結構いるから。先代は、お客様をとても大切にする人だったんだ。けど、下請けをバカにする客がいたら、そんな人を王様のように扱う必要はないって言ってたよ」
「神様ではあるんですか?」
「試練を与えて下さるからね」
「面白い考え方ですね」
「うちの会社じゃないけど、世の中には、元請け企業のことを『代理店さん』って呼んでる会社もあるそうだよ」
「代理店さん?」
「そう。自社商品の販売窓口になってくれる代理店さんと思えば、無理なことを言われても、上から目線でいられるんだとさ」
「へえー、俺もこっそりそう思うことにしよ。これだけでも、研修に来た甲斐があります」
山崎は、ちゃめっけのある目をして笑った。


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2011年12月3日土曜日

俺の名は勘九郎(78)

「専務なんて呼ぶ人はいないよ。社長と社員の間にいるただの工場長さ。尾藤さんと呼んでくれればいい」
尾藤さん、と呼び直した野々村は、ヨウザンの売上高や売上高に占める浅野ソーラーの割合などを聞いた。こいつは、やっぱり経理っぽいな、と思った山崎は、
「ところで、なんでヨウザンってゆう名前なんですか?」
と素朴な疑問を口にした。
「溶接で山も作ってしまう会社、って意味もあるんだけど、本当の由来は、上杉鷹山から来てるんだ」
「上杉ヨウザン? 謙信の子供か誰かっすか?」
「なんだ、大学を出た学士様のくせして、上杉鷹山もしらないのか」
尾藤の目は、山崎から隣の野々村に移っていったが、野々村も照れくさそうに下を向いた。
「全然しりません」
と山崎は元気よく答える。
「最近の若いのは、日本史なんか勉強しないのかね、なんてな。俺だってこの会社に来るまでは、鷹山なんて知らなかったよ。米沢藩の藩主に、上杉鷹山っていう偉い殿さまがいたんだ」
「えっ。上杉って、越後とか新潟とかあっちの方じゃないんすか?」
山崎は、更なる無知を露わにした。
「関ヶ原のあと、いろいろあって、上杉家は米沢に行ったんだな。そこの9代目に鷹山が現れて、藩政を改革したんだよ」
「詳しいですね」
野々村が言うと、社長に聞かされてるから、と答えて尾藤は続けた。


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