2012年3月4日日曜日

俺の名は勘九郎(83)

それから、1年後に徳原グループ入りした浅野ソーラーはヨウザンとの付き合いを打ち切らざるを得なくなった。
そしてさらに1年が経ち、山崎は、久しぶりに尾藤と対峙したのだ。
「ご無沙汰しております」
飲み干した麦茶が、すぐさま汗となって落ちてくる尾藤の額を見ながら、山崎は挨拶した。
「ずいぶんと、社会人らしくなりましたね。『しております』なんて、言われると調子が狂うなあ。2年前の山崎さんだったら『久しぶりっす』だったでしょう」
言われて、山崎は照れくさそうにほおを緩めた。尾藤が、ですます調でしゃべるので、こっちこそ調子が狂うと思った山崎だが、そんなものかなと思いながら本題に入った。
「山梨県のF市で大きなプロジェクトがあるんですけど、手伝ってもらえないでしょうか」
「もちろん、やらせてもらいます。久しぶりの浅野さんからの仕事だ。もう浮気されないようにね」
それから1週間で見積をまとめた尾藤は、初めからベストプライスを持ってきた。見積書の提出先は、調達課だったが、尾藤は調達課へ行く前に山崎のところへ寄った。
「これ以上は、1円も安くなりませんよ。」
真剣な尾藤の目を見て、本当にそうなのだろと山崎は思った。尾藤は、技術部の机が並ぶ島にも寄ってから、フロアの一番奥にある調達課長のところへ行った。山崎に言ったことと同じことを調達課長に宣言してから、尾藤は見積書を提出し、小田原へ帰っていった。


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