2012年5月12日土曜日

俺の名は勘九郎(86)

尾藤と杉本が何度やりあっても、議論は平行線だったが、時間が立つほど、焦りだしたのは、杉本の方だった。ヨウザンの他にも、金額の妥結しない交渉をいくつも抱え、杉本は技術部に突き上げられだした。 「金は後で決める事にして、先に走らせてくれ」 社長の田中にまで頼まれて、仕方なく杉本はいくつかの業者に打診した。 「足りない分は次の仕事で返すから、まずはこの仕事を始めてくれないか」 そんな風にして、プロジェクトはスタートしたのだが、頑なにそれを拒んだのが、尾藤だった。 「仕事が終わってから『払えません』と言われたら、どうしようもないじゃありませんか」 尾藤の言うことは正論だった。しかし、時は徒に過ぎていく。杉本は田中に「エナジルの上野社長からヨウザンに圧力をかけてもらえないでしょうか?」と頼んだ。田中はなにも考えず、杉本が言った事を上野にお願いした。 「そんなくだらないことに俺を使うな!」 田中の頭にカミナリが落ちた。 「ヨウザンだかなんだかしらんが、そこを使いたいと言ってきたのはお前たちじゃないか。てめえらで何とかしろ!それとこの仕事、絶対赤字にするなよ」 田中は余計なことを頼みに来てしまったと後悔した。
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