2013年8月3日土曜日

俺の名は勘九郎(110)


山崎が仮眠室に向かった様子がないのを不審に思った尾藤は、工場の建屋を出て、荷受けヤードへと歩いた。新人の頃の山崎ならいざ知らず、山崎が黙って事務所に戻ったはずはあるまいと考えて、尾藤は不具合が出たことを覚悟した。
検査台のパイプと格闘する山崎を見て、明日は誰かを応援につけないとまずいな、と尾藤は思った。
「出ちまいましたか?」
「はい、8本のうち4本が肉厚不足です」
「8の4…」
尾藤は右の目じりを少し歪めたが、驚いた風ではなかった。
「1本あると続くことがありますからね。そこら辺で止まってくれるといいんだが」
結局、20本のうちの11本に不具合があった。
深夜の3時半を過ぎていたが、山崎は眠気を感じなかった。次の20本を検査台に載せてほしいと、尾藤に頼んだ。
「あと140本、全部調べんといかんでしょう。いったん仮眠をとって下さい。朝までに、並べ替えておきます。6時になったら、船越が起きるから、検査に回しましょう」
船越は、かつて山崎に検査の仕方を教えてくれた社員だ。
「静岡の方は大丈夫なんですか?」
「全部、山崎さんにやってもらうわけにはいきませんよ。二人でやれば、はかどるでしょう」
「一人ぽっちじゃなくなるだけで、助かります」
「申し訳なかったね。一人やらせちまいまして」
それから山崎は仮眠室に入り横になったが、あと9本で予備のパイプがなくなることを考えるとなかなか寝付けなかった。もし20本以上の不具合が出た場合には、どこを探せばいいのだろう。全国の鋼材問屋をあらかた確認した、と尾藤は言っていた。
一睡もしていないような感覚だったが、実際には少し眠ったのかもしれない、山崎は、開ききらないまぶたをこすりながら、そんなことを考えた。誰かのセットしたアラームがけたたましく鳴り、6時になったことを知らせた。


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