2013年6月22日土曜日

俺の名は勘九郎(109)

次の20本にも異常はなかったが、調べ終えたときには、11時を過ぎていた。問題のなかったことを報告すると、尾藤もほっとしたようで、山崎に仮眠室で休むように促した。
「尾藤さんたちは、寝ないんですか?」
山崎が尋ねると、尾藤は残念そうに首を振った。
「みんなは交代で寝せますが、俺が寝ちまうわけにはいかなくってね」
「ヤバいっすよ、それ。二晩も寝てないんですよねぇ」
「大丈夫。90分だけ寝てますから。90分睡眠で一週間持たせたことだってあります」
何年前のことだろうと山崎は思ったが、それは聞かずに
「あと1本だけ調べたいんで、並べ替えだけお願いしていいですか」
と尾藤に頼んだ。
いい心がけですよ、と言って、尾藤はクレーンを扱う作業員を呼び、161番から180番までを並べさせた。
降ったりやんだりしていた雨は上がっていた。花の季節の冷気が降りて、首筋から背中に流れていくようだった。Tシャツの上から貼ったカイロの熱を少しでも取り込もうと、右手の甲を腰の後ろに押しつけて、大きく息をすった。
161番のパイプに計測器を当てたとき、山崎は嫌な予感がした。触っただけでパイプの厚さが分かるはずはない。マイクロメーターのメモリを読むと7.98ミリあった。両端の天地左右を調べても、パイプの厚さに異常はなかった。《気のせいか》と思ったが、そのまま仮眠室に戻る気にはなれなかった。もう一本だけ測ってみよう、山崎は隣のパイプへと移動した。
H型の鋼材で組まれた検査台に並ぶパイプは、タイヤ止めのような形の部材で転がらないように置かれている。その部材をずらし、管番号の書かれた部分が真上になるように、山崎は少しだけパイプを転がした。「天」の位置にマイクロメーターを当てたとき、再び嫌な予感がした。予感というよりは、杞憂であってくれと祈るような気持ちだった。しかし、どこからメモリを眺めてみても、7.92としか読めなかった。不良が出てしまった。その隣のパイプにも肉厚不足が一カ所あった。164番のパイプには異常がなかったが、165番のパイプは天と地の2カ所が規定の数値を満たしていなかった。


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