2010年2月4日木曜日

俺の名は勘九郎(22)

《あの人、どこに行ったと思います》
山崎が出ていくと、ハンが再び俺に声をかけてきた。
《さあ、パチンコにでも行ったんだろう》
《鳥かごを買いに行きましたよ》
《なに?》
《頭ん中、でっかい鳥かごでいっぱいになってましたね。段違い平行棒みたいに、止まり木が二本あるやつ》
《今ので、俺を飼う気になっちゃったわけ?》
《みたいですね。分かりあえたと思ったんじゃないですか》
《完全な一方通行だったがな》
《どうします?》
《どうって、俺はカゴの中で暮らすつもりはないさ》
《昼間は外に出してくれるつもりみたいですよ》
《夕方になったら、ねぐらの代わりに戻ってくると思ってるのか?》
《みたいですね》
俺には、鳥かごを買いに行ったことさえ読めなかったが、ハンにはそこまで分かるのかと思って驚いた。これほどまでに感受性の強いヤツに会ったのは初めてだ。
《私には目も耳もありませんけど、その分、受け取る感性が強いのかもしれません》
俺の驚きを見透かしたようにハンが言った。
《今のは、閉じていたつもりだったけどな》
《少しだけですが、漏れてましたよ》
《恐ろしいヤツだな。無生物ってのは、みんなハンみたいに感受性が強いのかい?これまで、そうは思えなかったけど》
《個体差は、あるのでしょうね》
日曜日の午前、配達業者の小柄な男が、自分の背丈ほどもある大きな段ボール箱を抱えてやってきた。前の晩は、キノコ雲の木に戻って寝たが、翌朝も俺はハンのところにやってきた。ハンの話には学ぶところが多い。


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