2010年3月20日土曜日

俺の名は勘九郎(23)

山崎は、クローゼットに備え付けの引き出しから、大きめのプラスドライバーを取り出すと、机に向かって座り、箱の中にあった説明書を読み始めた。ハンの位置から裏面が見える。
《オウム用だが小型のサルも飼える、って書いてありますね》
《読めるのか?》
《仕事ですから》
なるほど。ハンは俺なんかより、よっぽど頭は切れるのだろう。しかし俺には翼もあるし、嘴もある。いつだって自由に空をとべる。お前みたいに、机の上に転がされっぱなしなんてことはない。
俺は、しっかりと閉じてから、あえて挑発的なことを考えた。そしてハンの様子をそっと伺った。しかしハンには、目も口もない。究極のポーカーフェイスというわけだ。黙っているハンが、俺の意思を拾っていたのか、読めなかったのか。結局、俺には分からなかった。
《それだけの力を持つには、ずいぶん苦労したんだろな?》
意思を開いて、ハンに聞いてみた。
《特別なことをしたつもりはありませんよ。ただ、あなたがたの言う五感というものを一つに集めた状態にしておかないと、何も感じることができません》
《五感を一つに?》
《私には、あなたが真っ黒だということが分かるし、厚揚げは柔らかいということも知っていますよ。ただ、それは実際に見たり、触ったりしているわけではありません。見る、触る、味わう、嗅ぐ、聞く。これらの感覚を一つして、喉もとに集中させるんです》
《喉もと?》
《キャップについているフックの先の辺りです。リラックスした状態で、喉元に全部の感覚を集中させているときに、奥深いところにある意思まで拾えることは確かです。でも、これは私だけの感覚かもしれません》
《ありがとう。参考にさせてもらうよ》


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