2010年7月11日日曜日

俺の名は勘九郎(37)

S市のプロジェクトと同じようなことが、3度続きました。いずれも、市の予算をつかんでいたのは、上野です。
浅野ソーラーは、徳原グループ入りして、汚い会社になった。自治体の都市計画課や公園管理課に、この噂はすぐ広まりました。
ウィンディーサニーは、付加価値の高い製品ですから、太陽光や風力を利用する一般のハイブリッド型街路灯より当然コストも高くなります。それでも、毎晩一定の明るさを確保してきた実績が評価され、人気を得た商品でした。しかし、徳原グループ入りして半年もすると、ウィンディーサニーでしか対応できない仕様書を作ってくれる自治体はなくなりました。
どこのメーカーでも作れる街路灯と値段の競争をしてもウィンディーサニーに勝ち目はありません。新工場の建設が始まったとたんに、浅野ソーラーは主力商品のウィンディーサニーを失ってしまったようなものでした。
黄色く色づいたばかりのイチョウの葉を、いっぺんに落としてしまうような強い風が吹いた日のことでした。珍しく朝から社長室にこもっていた浅野は、机の左奥にある電話に手を伸ばすと、少しためらいながらも上野に直通の内線番号を押しました。浅野は上野の秘書の米田に電話して、なんどもアポイントをとろうとしましたが、上野は米田に、浅野からの電話はとりつぐなと指示していたようでした。上野が電話にでると、浅野は名前を名乗り「これから上がります」とだけ言って、返事も聞かずに電話を切りました。浅野ソーラーがあるのは徳原ビルの5階でしたが、浅野は中央のエレベーターを使わず、非常階段を1段飛ばしでのぼり、徳原エナジルのある8階まで駆け上がりました。首からぶら下げていた社員証を認証機にかざすと、重い扉を引き、上野がいるはずの社長室へ足早に進んだのです。社長室の扉は開いていて、浅野は入るなり、上野に懇願しました。
「ウィンディーサニーを以前のように売らせて下さい。全国の自治体をお詫びして回ってきます」


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