2010年8月11日水曜日

俺の名は勘九郎(40)

三日以内に考えてこいと命じた上野でしたが、突然浅野を呼び出したのは、翌日のことでした。
田中の他に副社長の蔵島もいたので、上野は「呼んでないやつがきているな」と、小さな声で言いました。
「今ちょうど、この件について打合せしていたものですから、3人で参りました」
浅野が言うと、上野は一瞬不快な表情をつくりましたが、座れという風に目で促しました。
広い社長室の奥にある、黒いスウェードのソファーの長椅子に浅野と蔵島が腰かけ、浅野の向かいに上野は座りました。上野の隣の一人掛けの椅子に座った田中でしたが、浅野と蔵島に対して上座になってしまうようで、テーブルの脇にある背もたれのない予備の椅子に移動しました。
「時間がないんだ。一晩あれば考えられただろ!」
左の腕に目をやった上野は、実際に時計を見たわけではありませんでした。
「老朽化した街路灯のありかを調べて、省エネタイプのものに交換するよう自治体に働きかけてみたいと思います。その時に、ウィンディーサニーの性能と明るさ保証の実績を強調して説明します」
「そんなことは、とっくにやっていることじゃないのか」
「もちろん、各自治体に対して個別に訴えてはきました。しかし、これからはキャンペーンを貼って、大いに宣伝します。エコを全面的に強調して、マスコミに取り上げてもらえるような作戦も考えます」
「それが補助金につながるのか」
「国交省に対しても働きかけてみたいと思います。徳原建設にいるOBの方を紹介してもらえませんか。その方を通じて、国交省のしかるべき人にアプローチしたいと思います」
「分かった。ウィンディーサニーだけに補助金がつくよう、うまく交渉しろよ」
「それは難しいと思います。特定の商品にだけ、補助金が出ることはないんじゃないでしょうか」
上野は不満そうでしたが、横にいた田中にちらりと目をやりました。


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