2010年9月12日日曜日

俺の名は勘九郎(43)

「そう言うわけには行きません」
黙って聞いていた蔵島が異を唱えました。
「若い社員にどう説明するんですか。会社は社会の公器だって教えてきたんですよ」
山崎たち若手に教えてきたことを思いだしながら、蔵島は言いました。それに対して、田中は、少し力を込めて反論したのです。
「缶ジュースはどこで買っても120円じゃないですか。新聞の休刊日だって話し合いで決めてるんですよ。世の中は適度な競争で成り立ってるんです。若い連中だってそれくらいのことは知ってると思いますけどね。私だって、毎回談合しようと思っているわけじゃありません。一度話して、あうんの呼吸をつくるだけです」
「この話は終わりにしよう。あとでもう一度、上野さんと話してくる」
しかし浅野は「勝手な動きをするな」と田中に言うことができませんでした。そして浅野が、この件で上野の所に行くこともありませんでした。上野の顔を見ることが大きなストレスになっていた浅野に、方針転換をせまる気力は残っていなかったのです。
鉄塔の向うに一条の雲がたなびくばかりで、東京の空にしては冴えのある師走の朝のことでした。駅へ向かう浅野は、手に下げたカバンから微かな振動を感じ、歩みを止めて携帯を取り出してボタンを押しました。


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