2010年9月4日土曜日

俺の名は勘九郎(42)

「自然と、だな。それ以上、俺が知る必要はないだろう」
そう言って上野は携帯を取り出し、「こっちは終わったから、すぐに山下を呼んでくれ」と秘書に言って、浅野に出ていくことを示唆しました。
「我々の判断で談合しろというのですか!」
蔵島は食い下がろうとしました。
「誰にものを言ってるんだ。次の役員人事を楽しみにしておくんだな」
上野は含みのある笑い方をして、蔵島の目を見ました。
エレベーターで5階に戻った3人は、そのまま浅野の社長室に向かいました。険しい顔をして進む浅野と蔵島の後を、田中がうつむき加減でついていきました。
浅野の応接室のソファーはビニール皮の安物で、壁に高価な絵もありません。上野の部屋と比べて見劣りするのは明らかでしたが、談合して儲けた先にあるのが、虚飾でしかないように思え、浅野はむなしさと怒りを覚えました。
蔵島を自分の脇に促し、田中を正面に座らせると浅野は静かに言いました。
「上野社長と事前に打ち合わせしていたようだね」
「いいえ、今朝の社内会議で社長のご意見を伺おうと思っていたのですが、上野さんから急な呼び出しになってしまったので…」
「それも、予定通りのハプニングだったんじゃないのか」
「そんなことはありません」
「それにしたって、田中を談合プロジェクトのリーダーにするような話だったじゃないか」
「業者同士の強調には、やむをえない面があると思います。叩きあいをしていたのでは、適正な利益を確保できません。前から言っている通り、ウィンディーサニーはもう少し高く売れていい商品だと思っています。その点では、上野さんに近いのかもしれません。世の中には、利益率が20%や30%という商品だって沢山あるじゃないですか。そんな売り方をしている会社が、勝ち組企業と言われてるんですよ」
「その話は前にもしたはずだよ。それはうちのやり方じゃない。しかし、上野さんはそれを否定している。田中に言い含めたんじゃないのかね」
「それは違います。でも、このままじゃ、うちは潰れてしまいますよ。一度だけやらせて下さい。村上の設計部長は、高校時代の友人です。彼と会って、話をしてみます。適切な価格について、意見交換するだけです」
「それだけじゃすまないだろう」
「それ以上、聞かないでください。浅野社長も蔵島さんも、何も知らなかったことにすればいいんです」


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