2010年10月21日木曜日

俺の名は勘九郎(46)

「業者さんたちと飲んじゃいけないことになってるんですよ。うるさい決まりが沢山ありましてね」
「こんな田舎まで来たら、うるさく言う人もいないでしょう。食事も用意させているので、是非お願いします」
「どうする?」
元来が酒好きの鶴巻が部下の方を見て言ったので、浅野は一瞬ほっとしました。
「私は会社に戻りますので、部長はどうぞ」
役所ではなく、「会社」と呼んだことを不思議に感じましたが、浅野はすぐに
「そう固いことをおっしゃらずに、どうかお付き合い下さい」
と言って、ふたりを帰らせまいとしました。
「いいえ、そういうわけには参りません」
「最近の若いのは、融通がきかないんですよ。まあ、我々の世代が少しルーズ過ぎたのかもしれませんな。また今度ということにしましょう」
鶴巻は申し訳なさそうでしたが、部下の方に向き直ると「俺は会社へは帰らないぞ」と言ってから、浅野に駅までの道順を聞きました。癇癪を起こす上野の顔を想像すると浅野は憂うつになりましたが、これ以上引きとめるのも失礼だろうと判断して、浅野は車を呼びました。
タクシーが工場の正門を出て右折するのを見届けると、浅野はすぐ上野の携帯に電話をかけました。
「バカヤロー。絶対に帰すなと言っただろ!」
上野の反応は予想通りでした。


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