2011年1月7日金曜日

俺の名は勘九郎(53)

《浅野は、何に対してもそうでした。家族旅行から帰ってくると、車のボンネットにそっと触れていました。お疲れさん、と心の中でねぎらっていたのです。一番のお気に入りはロレックスの腕時計だったのじゃないですかね。私は彼に嫉妬したことさえあります》
難儀だな、俺はそう思ったが、その念は閉じ込めておいた。人間との関係性が俺とハンとでは違うのだ。俺たちは人間に依存して生きていくことなどない。人間だって、カラスと共存したいとは思わないだろう。いつから俺たちは、こんなに悪者にされてしまったんだろう。昔は神の使いとして崇められたこともある。三本足のカラスがいて、そいつは「やたがらす」と呼ばれている。サッカー協会のマークに使われているあれだ。かわいい七つの子がいるカラスもいて、そいつは歌にも歌われていた。ちなみに、七つというのは7歳のことだ。歌の意味を知っている人間もほとんどいなくなってしまった。
《きっとまた、いい関係になれる日がきますよ》
いつのまにか俺の念を拾って、ハンが話しかけてきた。
《閉じていたつもりだがな》
《完全に閉じるというのは、全く何も考えないのと同じくらいに難しいものです》
《ハンは完璧にコントロールできているじゃないか》
《そんなことはありませんよ。ただ、浅野の気持ちを知りたくて、鍛えられた部分はありますね》
《片想いの恋みたいだな》
《片想い…。自分でもよく分からない感情です。私たちは、自分で子供をつくることはありませんから、生きものとは違った感情があるのかもしれませんね》
ハンの気持ちを理解するのは、俺には難しいようだ。


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