2011年2月1日火曜日

俺の名は勘九郎(55)

ホテルのラウンジに入ると田中は一番奥の席を要望した。ウェイトレスがメニューを置いて、お決まりになったらお呼び下さい、と二人に言うと、千葉はすぐに「ブレンドコーヒーで」と注文した。田中が、私もそれで、と言うと、ウェイトレスは笑顔を作って、ご注文は以上でよろしいでしょうか、と確認する。千葉が黙って頷くと、彼女はメニューを取り上げ厨房へ下がっていった。
「名刺交換はよしましょう。趣旨は聞いていますから」
内ポケットから名刺入れを取り出した田中の先を制して、千葉が言った。
「お忙しいところ、時間をとって頂きまして、本日はどうも有難う御座います」
田中が用意していた口上を言うと、
「手短にいきましょう。仕組みは考えてあるのですか?」
と、千葉は単刀直入に聞いた。田中は、カバンの中から、A4の紙を取り出して「一応、各社の受注金額が均等になるようにシミュレーションしてみました」と言ってその紙を千葉に渡した。千葉は、左から右へと忙しく瞳を動かし、一番下の辺りで目の動きをとめ、黙って頷いた。田中の作ったシミュレーションは、最初に受注したのがA社なら、次はB社、その次はC社が受注するというもので、それ以降は、累計受注金額の最も少ない会社が次の仕事を取るという単純な仕組みだった。但し、表の下に※印があり、「チャンピオン決定の方法は上記を原則とするが、特殊な事情がある場合は、各社の協議によって決定できるものとする」と記載されていた。
「※印を削除して下さい。累計受注金額の一番少ないところが次のチャンピオンになればそれでいいんですよ」


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