2011年5月3日火曜日

俺の名は勘九郎(62)

「談合していることは社内でも極秘にしておけ」
「無駄ですよ。技術部がつくったコストを無視して入札することだってあるんですから。100万で作れるものを200万円で入札したら、仕事は取れません。そんなことが続けば、誰でも談合していると思うでしょう」
「解説されなくても分かっとる。田中は俺が抑えてやるから、あとのヤツには四の五の言わせるな」
「出来るだけやってみます」
猪俣はそう答えたが、やがて談合は公然の秘密になっていった。
初めのうち、談合のシステムは村上製作所の千葉が描いたとおりに進行した。浅野、村上、鳥海の順で一巡目を受注したあとは、累計受注金額の一番少ない会社が次の受注者となるルールで、議論の必要はなかった。ところが7回目となる入札の仕様書を読んだとき、猪俣は首をひねってしまった。山梨県のF市が用意した発注仕様書は、開発要素の多い内容で、標準品のどのタイプにも該当しないものだった。また、合計130基の街灯を一度に整備する大規模プロジェクトで、どの会社にとっても魅力的な案件だった。談合の順番から言えば、それは鳥海ウィンドパワーが受注するはずなのだが、鳥海の技術力では対応が難しいだろうと猪俣は思った。


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