2010年5月12日水曜日

俺の名は勘九郎(30)


小型のサルが飼える大きさの鳥かごで眠るようになって4日目の夜、鳥かごの窓はいつものようにカギがかかっていなかった。俺は、窓を嘴で持ち上げ、そのままするりと、頭を外にやり、うなじを使って、窓を一番上に持ち上げた。それからジャンプして、かごを抜け出し、山崎の机の上に降りた。そうして、埃をかぶったままのハンを咥えたときに、タイミングよく山崎が風呂から出てきた。
「わっ、何やってんだよ、お前!」
ちょうどよかったので、俺はハンを咥えたまま、嘴を天井に向け、バサバサと二度、大きく翼を広げた。羽を戻しハンを机の上に置くと、山崎が俺の方にゆっくりと近づいてきた。
俺が山崎になついたそぶりを見せたことは一度もなかったが、不思議なことに山崎は、俺を警戒するところがなかった。
ハンを手に取り、じっと眺めてから、今度は俺の方を向いた。
「勘九郎はこれが欲しいのか?」
俺は、クォアアルッと、ひと鳴きして、同意してみせた。
山崎が俺のことを勘九郎と呼びだしたのは、その前日のことからで、3日間、念じ続けた成果だった。それまで山崎は俺を「九ちゃん」と呼び続けていた。九ちゃんと呼ばれたとき以外は、山崎の言葉に適切に反応してやっていたから、山崎も、ようやく呼び名を変えてみようと思ったのだろう。
「カラスは光るものが好きだっていうけど、ほんとなんだな。でもこれはやれないぜ。浅野社長の大事な形見だからな」


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