2010年11月7日日曜日

俺の名は勘九郎(48)

やがてウィンディーサニーを含めた太陽光や風力を利用するタイプの街路灯に補助金がつくことにはなったのですが、工場見学の一見以来、上野と浅野の関係は決定的なものになっていました。上野は浅野のやることにいちいち文句をつけ、ことあるごとに5階のフロアまで降りてきて、社員たちが見ている前で浅野を怒鳴りつけたのです。
「わざわざ、ここで言うことないのにね」
同情する女子社員の声が聞こえたとき、浅野はいっそう屈辱を感じました。
年が明け、正月休みが終わりに近づくと、浅野は憂うつ感が増してくるのを感じました。
そして出勤の朝、浅野はトイレに座ると、ズボンとパンツをおろした格好のまま動けなくなってしまいました。
《俺が、俺の作った会社に行きたくなくなってしまうなんて》
そう考えた浅野は絶望的な気持ちになりました。それでも何とか立ち上がり、水を流そうとして、ふと便器の中を覗いてみました。よく磨かれたパールホワイトの便器の中に、鉛筆よりも細い便が、とぐろを巻くこともできずに沈んでいました。ミミズのような赤黒い排泄物を見た浅野は、会社ではなく病院に行くことを決めたのです。
ストレスからくる胃潰瘍と軽いうつ症状と診断された浅野は、結局3週間も会社を休んでしまいました。入院中、不眠を訴えた浅野は医者から睡眠薬を処方されました。消灯時間の少し前に、毎晩一錠ずつ渡されるその薬を、浅野は一度も飲みませんでした。プラスチック製のメガネケースに浅野が睡眠薬を隠していることに、医師も看護師も気づきませんでした。私は、目の前を通過していくすべての人間たちに薬のことを訴え続けました。しかし、誰かが私の念を感じとることはありませんでした。
そうして、あの、月の冴えた2月の夜を迎えてしまったのです。


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