2012年11月21日水曜日

俺の名は勘九郎(98)


《何か気になることでもあるのかい?》
《勘九郎さんの感知力ってすごいんですね。ぼくは今、なるべく不安な気持ちが出ないように気をつけて、念を送ったつもりだったのですけど》
《感情のコントロールは難しいのさ。俺だって、不安や怒りを殺しながらしゃべるのは大変だよ》
《毅然と生きるには、心の制御が大切なのでしょうね。堀田さんは強い人ですが、思ったことがそのまま行動に表れてしまう人です》
《そんなタイプだな。俺も何度か、堀田が激昂するのを見たよ。堀田は、ホームレスを支援するNPOの設立に邁進している頃だと思っていたのだが》
《はい、それもやってますけど、ある人に復讐しようとしています。サラリーマン時代の恨みを晴らすそうです》
《上野のことだな。堀田がいた会社の親会社の社長さ。どうやって復讐してやろうというんだい?》
《市民団体の力を利用しようとしているみたいです》
《市民団体?》
《表向きは、消費者を守る市民運動家が集まるNPO法人として活動してますが、実態はかなり過激な組織のようです》
《ミイラ取りがミイラにならなきゃいいがな》
《えっ?》
《団体の力を利用しようとしている堀田が、その団体に染まってしまわなきゃいいってことさ》
《ああ…。その危険はあると思います。堀田さん自身、その団体と関わりあうのは、復讐が済んだら終わりにするつもりみたですけど》


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2012年10月27日土曜日

俺の名は勘九郎(97)


《何か気になることでもあるのかい?》
《勘九郎さんの感知力ってすごいんですね。ぼくは今、なるべく不安な気持ちが出ないように気をつけて、念を送ったつもりだったのですけど》
《感情のコントロールは難しいのさ。俺だって、不安や怒りを殺しながらしゃべるのは大変だよ》
《毅然と生きるには、心の制御が大切なのでしょうね。堀田さんは強い人ですが、思ったことがそのまま行動に表れてしまう人です》
《そんなタイプだな。俺も何度か、堀田が激昂するのを見たよ。堀田は、ホームレスを支援するNPOの設立に邁進している頃だと思っていたのだが》
《はい、それもやってますけど、ある人に復讐しようとしています。サラリーマン時代の恨みを晴らすそうです》
《上野のことだな。堀田がいた会社の親会社の社長さ。どうやって復讐してやろうというんだい?》
《市民団体の力を利用しようとしているみたいです》
《市民団体?》
《表向きは、消費者を守る市民運動家が集まるNPO法人として活動してますが、実態はかなり過激な組織のようです》
《ミイラ取りがミイラにならなきゃいいがな》
《えっ?》
《団体の力を利用しようとしている堀田が、その団体に染まってしまわなきゃいいってことさ》
《ああ…。その危険はあると思います。堀田さん自身、その団体と関わりあうのは、復讐が済んだら終わりにするつもりみたですけど》
《団体の名前は?》
《「名前のない市民団」》
《名前のない市民団…か。薄気味の悪い名前だな。それとも正義の味方は、問われても名乗らないのかな》
《市民団の人たちは、自分たちの活動を正義の執行だと思っているようです。堀田さんも、彼らの主義や主張が正論であることは分かっているのですが、初めは強い違和感を持っていました。けれど、最近は「違う」という感覚が薄れ始めています。ぼくの不安は、それと反比例するように強くなってきました》
《正義の執行者…。ますますもって近づきたくないタイプだね。その団体と堀田は、どう関係しているんだい?》



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2012年10月12日金曜日

俺の名は勘九郎(96)

山崎と雪乃が同棲して八ヶ月になろうとしていた。雪乃というのは、キトと一緒にこの部屋にやってきて、俺を見るなり「なにこいつ」と言ったあの女だ。コタローの話によると、雪乃がその公園にやってきたのは、堀田とコタローが一緒に住むようになる直前だと言う。それはちょうど、雪乃が山崎の前に現れたころでもあった。
雪乃はある日、宮下公園にやってきて、地べたに置いた薄汚れのスーツケースから箱入りのチョコレート菓子を取り出し、キトに食べさせたそうだ。食べても安心だとキトに言われてコタローもそれを口にした。雪乃がキトの頭をなでた瞬間、コタローには、キトの体に電気が走ったように見えた。その後のキトは普通にしゃべっていたのだが、翌日から姿を消してしまった。
何日待っても、キトは現れなかった。自分が何かして嫌われたのだろうかと不安にもなったが、コタローに思い当たる節はなかったそうだ。

《堀田は、まだあの公園に住み続けるつもりなのかい?》
コタローの上空数メートルのところから、俺は念を送った。明治通りを左にそれた小路を北に進み、コタローは山崎のマンションがある中野を目指して、歩いていた。
《公園からホームレスを追い出す前に、社会のセーフティーネットを整備しろって、区に働きかけているようです》
《堀田は、昨日が別れの日だった事を意識していたのかい?》
《ええ。ぼくにここを出るように言ったのは堀田さんでしたから。今朝出かけるときにお別れをしました》
《そうか。つらかったようだな》
《はい。たくさん泣きました。人間にもいい人はいるのですね。激情家ですが、真っすぐな人でした》
《通じ合っていたんだな》
《そうですね。ぼくは初め、人間の言葉だけを理解きたのですが、堀田さんの考えていることは心のなかまで分かるようになりました。いろんな人や動物の考えを読めるようになったのはそれからです》
《堀田が昼間、スーツで出かけるのは、区の役人と直談判するためかい?》
《それもあるみたいですが、昼間は別なことをしている日のほうが多いです。》
コタローの意識に曇がかかったように感じたので、おれはスピードを落とし、コタローがゆっくりと歩けるように飛んだ。



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2012年9月29日土曜日

俺の名は勘九郎(95)

《えっ!勘九郎さんは、堀田さんを知っているのですか?》
コタローも声にだして答えた。
《堀田は、俺の同居人と同じ会社にいたんだ。しばらく前に堀田は辞めてしまったけどな。まさか本当にホームレスになっているとは》
《家はありませんけど、生活はちゃんとしてますよ。毎日決まった時間にスーツを着て出かけていきます。3日に一度は銭湯にも行ってるんですよ》
《毎日スーツを着てどこに行ってるんだい?》
《区役所や図書館や、その他にもいろんなところに行っています》
俺たちがそんなやりとりをしていると、堀田がコタローに話しかけてきた。
「カラスとケンカしても、コタローじゃ勝てねえぞ」
しかし、堀田はすぐに俺たちがケンカしている様子ではないことに気づいた。
何だか話をしているみたいだ、堀田はちらりとそんなことを思ったが「飯にするか」とコタローに言って、段ボール箱から取り出したジャージに着替え始めた。


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2012年9月22日土曜日

俺の名は勘九郎(94)

《どうして勘九郎さんは、人間に飼われているんですか?》
《晩飯を調達する手間が省けるから、かな。どちらかといえば、成り行きさ。飼われているというより、ねぐらをそこにしているだけだ。鳥かごはベランダにあって、出入りは自由だ。雨の夜は、部屋に取り込んでもらえるから、まあ快適でもある》
《飼い主は、いい人なんですか?》
《飼い主、と言われると抵抗があるが、イヤなやつではない。少なくとも犬に服を着せたりはしないタイプだ》
《自然な人なのでしょうね。じゃなきゃ、勘九郎さんが一緒に住むことなんてなさそうです》
《なかなかいい観察だよ。よく見て推理するのは大切なことだ。将来は「犬の探偵さん」か》
《バカにしないで下さい》
傾きはじめたと思った太陽はもう沈みかけていたが、それでも西の彼方に残る朱色の空は、昨日よりもゆっくりと暮れていくようだった。春の訪れは先だが、梅の木を見れば、小さな芽が枝先で棘のような角を出し、息吹きの日を待っていた。
俺はコタローに、いつまでこの公園にいるのかを聞いてから、山崎の家に帰ろうとした。コタローは、今夜ここの人に別れを告げたら、明日には出ると言うので、俺は次の日もこの公園に来ることにした。
じゃあな、と声をかけ、飛び立とうとしたとき、街灯の薄明りを背中に受けて、スーツ姿と分かる黒いシルエットが俺たちの方に近づいてきた。どこかで見た歩き方だと思っていると、コタローが尻尾を振って嬉しそうに走り出し、ワン・ワンと鳴いた。コタローは、《お帰り!堀田さん》と元気よく言ったのだ。
見覚えのある歩き方の主は堀田だった。堀田がぶら下げている透明のビニール袋からはドッグフードと1リットルサイズの牛乳パックが見え、その他に缶ビールとワンカップの酒が何本か入っていた。
《コタローが堀田といるとは驚きだ》
念を送るだけではなく、声に出して俺は言った。


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2012年8月30日木曜日

俺の名は勘九郎(93)

《本当ですか?その森に連れて行って下さい》
《森にねぐらがあるわけじゃなんだ》
《どこかの公園ですか?どこへでも行きます。キトさんのところまで案内して下さい》
《公園でもなくて、俺は今、鳥かごに住んでいるんだ》
《鳥かご!?》
《小型のサルも飼えるってのがウリの、ちょっとした広さだぜ》
《広さの問題っていうか、人間に飼われているカラスなんて初めて聞きました》
《ひょんなことから、そこに住むことになってな。まあ生き方いろいろってことだ》
《今度、連れて行ってくれませんか?どうしてもキトさんに会いたいんです》
《ネコに恋する仔犬ってとこか》
《そんなんじゃありません!ただ会って、いろんなことが出来るようになったぼくを見てもらいたいのです》
《冗談だよ。すぐ本気にするところは、やっぱり子どもだな。これから来たって構わないけど、キトも昼間はいないかもしれないな》
《ぼくもここの人に挨拶していきたいので、また今度にします》
《おいおい、連れて行っても一緒に住めるとは限らないぜ。あの狭いマンションにカラスと猫と、犬までは無理だろうな》
《いいえ、そういうつもりじゃないんです。ここにいると危険なので、ぼくはいずれ出なきゃいけないんです》
《それほど危険な公園には見えないけどな。きれいに整備されているじゃないか》
《それがいけないのです。人間はこの公園から汚いものを一掃しようとしているのです。野良犬もホームレスも、ここから追い出されそうです》
《そう言えば、最近、都会の公園じゃあ、人間に飼われた犬しかみたことがないな》
《ぼくらは、捕まったら保健所で殺されてしまいます。ぼくにも翼があったらいいのに》
《羽が生えたら、ハトにでもなることだな。真っ黒いと人間には嫌われるぜ。犬の方がよっぽど優遇されてると思うがね》
《飼い犬だけですよ。でもぼくは首輪をされたり、服を着せられたりなんて、まっぴらです》
《それが自然さ。鳥かごに住んでる俺が言うのもなんだがな》
《どうして…、えーと、そういえばまだ名前を聞いてませんでしたね。ぼくはコタローです》
《俺の名は勘九郎。よろしくな》



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2012年8月19日日曜日

俺の名は勘九郎(92)

《これは失礼しました。だが、あいにく、俺のしゃべり方は誰に対してもこうでね。お前が王様ライオンの息子だとしても同じさ》
《カラスの一族というのは、みなさん、そうなのですか!》
《まあ、そんなに突っかからないでくれよ。これは単に俺流だ。それにしても仔犬のうちからマタげるなんて、たいしたものじゃないか》
《ずいぶんと上から目線ですね。カラスが犬より偉いかのようです》
《その考え方は間違っているぜ。カラスと犬のどちらかが偉いなんてことはない。人間だって、草花だって、どの生きものだから偉いなんてことはないんだ。それに俺は、自分が偉いなんて思ったこともない。たまにしかな》
《共感しそうになって、損しました。それとも、てれ隠しですか》
《どっちでもいいさ。それにしても、しっかりしてるな。まだ子供だろ》
《独りで生きてると、いろいろ覚えなきゃいけないんです》
《飼い犬じゃなさそうだが、親もいないのか?》
《どこで生まれたのかは知りません。人間に飼われていたことはあります。シェットランドシープドッグだと思われていたうちは良かったのですが、血統証に偽りがあったとかで、1歳になる前に捨てられました》
《ふん、血統にしか興味のない最悪の人間だな》
《外にでたおかげで強くなれました。いっぱい勉強もしました》
《マタギも独りで覚えたのかい?》
《キトさんから教えてもらいました。キトさんというのは、この公園で知り合った猫です》
《キト?キジトラ模様のメス猫かい?》
《キトさんを知っているのですか?ぼくはもう、何カ月も会っていません。キトさんに、ぼくの成長を見てもらいたいなあ。でも、この公園には来なくなってしまいました》
《彼女なら俺のウチにいるぜ》



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