調達課で集約した見積と自社の工場でかかる費用を合算してコストを作るのは技術部の仕事だが、技術課長は、最後に出来上がったコストを、一律で10%カットした。過去のデータから類推した村上製作所の想定価格を下回る予算を作るにはそうするしかなかったのだ。
猪俣はそれを入札金額にした。通常なら、技術部のコストに利益を上乗せして見積書を完成させるのだか、仕事をとることを優先したのだ。ギリギリと絞ったコストをさらにカットした数字にまったく利益を乗せず見積書は出来上がった。それでも、村上に勝てる保証はないというのが、上層部の認識だった。利益よりも受注の確保に走ったのは、上野が鬼に形相でグループ会社の社長たちに檄を飛ばしたからだ。エナジルはもちろん、傘下の会社は、利益度外視の受注戦略を立てた。それは戦略というよりは、玉砕覚悟の特攻だったが、天皇と呼ばれるようになっていた上野に忠告できる者はいなかった。徳原グループの総帥である綱川に対しては「エナジルは今年も受注を伸ばす」と豪語するだけで、それ以上の報告はしなかった。
F市の神田が「落札者は、浅野ソーラーさんです」と入札結果を発表したとき、山崎はパっと明るい表情になり、思い入れの深いプロジェクトを手に入れた喜びをかみしめた。と同時に、尾藤があの見積から金額を下げてくれるだろうか、という不安が頭をよぎった。しかしそれでもやはり、受注した喜びの方が遥かに大きかった。
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2012年3月17日土曜日
2012年3月4日日曜日
俺の名は勘九郎(83)
それから、1年後に徳原グループ入りした浅野ソーラーはヨウザンとの付き合いを打ち切らざるを得なくなった。
そしてさらに1年が経ち、山崎は、久しぶりに尾藤と対峙したのだ。
「ご無沙汰しております」
飲み干した麦茶が、すぐさま汗となって落ちてくる尾藤の額を見ながら、山崎は挨拶した。
「ずいぶんと、社会人らしくなりましたね。『しております』なんて、言われると調子が狂うなあ。2年前の山崎さんだったら『久しぶりっす』だったでしょう」
言われて、山崎は照れくさそうにほおを緩めた。尾藤が、ですます調でしゃべるので、こっちこそ調子が狂うと思った山崎だが、そんなものかなと思いながら本題に入った。
「山梨県のF市で大きなプロジェクトがあるんですけど、手伝ってもらえないでしょうか」
「もちろん、やらせてもらいます。久しぶりの浅野さんからの仕事だ。もう浮気されないようにね」
それから1週間で見積をまとめた尾藤は、初めからベストプライスを持ってきた。見積書の提出先は、調達課だったが、尾藤は調達課へ行く前に山崎のところへ寄った。
「これ以上は、1円も安くなりませんよ。」
真剣な尾藤の目を見て、本当にそうなのだろと山崎は思った。尾藤は、技術部の机が並ぶ島にも寄ってから、フロアの一番奥にある調達課長のところへ行った。山崎に言ったことと同じことを調達課長に宣言してから、尾藤は見積書を提出し、小田原へ帰っていった。
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「ご無沙汰しております」
飲み干した麦茶が、すぐさま汗となって落ちてくる尾藤の額を見ながら、山崎は挨拶した。
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言われて、山崎は照れくさそうにほおを緩めた。尾藤が、ですます調でしゃべるので、こっちこそ調子が狂うと思った山崎だが、そんなものかなと思いながら本題に入った。
「山梨県のF市で大きなプロジェクトがあるんですけど、手伝ってもらえないでしょうか」
「もちろん、やらせてもらいます。久しぶりの浅野さんからの仕事だ。もう浮気されないようにね」
それから1週間で見積をまとめた尾藤は、初めからベストプライスを持ってきた。見積書の提出先は、調達課だったが、尾藤は調達課へ行く前に山崎のところへ寄った。
「これ以上は、1円も安くなりませんよ。」
真剣な尾藤の目を見て、本当にそうなのだろと山崎は思った。尾藤は、技術部の机が並ぶ島にも寄ってから、フロアの一番奥にある調達課長のところへ行った。山崎に言ったことと同じことを調達課長に宣言してから、尾藤は見積書を提出し、小田原へ帰っていった。
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2012年2月25日土曜日
俺の名は勘九郎(82)
「おーい、飯にしようや」
少し離れた所で別な作業していた尾藤から声をかけられたが、山崎は、「すいませーん」と大きな声を出し、手を振った。
歩み寄ってくる尾藤に「ほんの少し足りないんですけど」と山崎は、報告した。
「狙いすぎなんだよ」
とメーカーの姿勢に文句を言った尾藤は、すぐに自分で計測し直した。同じパイプの上下を調べると、管の下側の厚みがわずかに足りなかった。
「他は?」
「他のは大丈夫でした」
聞きながら、尾藤はいくつかのパイプを自分で調べていた。大丈夫そうだな、とつぶやくと「さっきのパイプは返品だ。念のために一緒入荷したやつは全品検査してくれ」と山崎に言った。そのパイプと一緒に運ばれてきたパイプは100本以上あり、抜き取りなら6本で済むはずだった。山崎は、舌打ちしたくなる気分を抑えて
「0.01ミリ足りないだけで、事故とかにつながるんですか?」
と、疑問を口にした。
「つながるね。そのパイプを使っても、実際には問題ないだろう。けど、一度、それをやると、品質に対する感覚が、マヒしていくんだ。少しくらいいいだろう、と思ったらすぐ流されるのが人間ってもんだよ」
「分かる気がします」
「山崎さん、今日、何時に事務所についた?」
尾藤の目が少し険しくなった。
「8時ちょうどです。低血圧っぽくって、朝、苦手なんです」
「初日は、何時に来た?」
尾藤の目つきはさらに厳しくなっていた。
「7時40分頃でした」
「なら、低血圧のせいじゃないだろう。遅刻したわけじゃないから、文句は言わないけど、あと5分寝てても大丈夫だって、毎朝思ってないかい?」
「すいません」
「うるさいオヤジで悪いけど、これもあんたのためだ。それと、正直言えば、うちのためでもある。浅野さんの社員に、ヨウザンを分かってもらいたいからな」
「正直言うと、うちの蔵島にも言われたことがあります」
「あの人なら、ちゃんと教えてくれるだろうな」
「やっぱ、そいう感じですか?」
「蔵島さんは、うちのこともパートナーとして扱ってくれる人だよ。一緒に仕事してて気持ちのいい人だね。だけど、山崎さん、同じことを3度言われたらアウトだぞ。遅刻だけの問題じゃない。安きに流されるなってことさ」
「ハイ」
山崎は、反省しながら返事した。
一台の軽トラックが、寸法の足りない一本のパイプを載せて、ヨウザンの工場を後にした。
「ダメなものはダメ。たった一本でも、0.01ミリでもな」
尾藤の言葉を思い出しながら、山崎は白いトラックを見送った。
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少し離れた所で別な作業していた尾藤から声をかけられたが、山崎は、「すいませーん」と大きな声を出し、手を振った。
歩み寄ってくる尾藤に「ほんの少し足りないんですけど」と山崎は、報告した。
「狙いすぎなんだよ」
とメーカーの姿勢に文句を言った尾藤は、すぐに自分で計測し直した。同じパイプの上下を調べると、管の下側の厚みがわずかに足りなかった。
「他は?」
「他のは大丈夫でした」
聞きながら、尾藤はいくつかのパイプを自分で調べていた。大丈夫そうだな、とつぶやくと「さっきのパイプは返品だ。念のために一緒入荷したやつは全品検査してくれ」と山崎に言った。そのパイプと一緒に運ばれてきたパイプは100本以上あり、抜き取りなら6本で済むはずだった。山崎は、舌打ちしたくなる気分を抑えて
「0.01ミリ足りないだけで、事故とかにつながるんですか?」
と、疑問を口にした。
「つながるね。そのパイプを使っても、実際には問題ないだろう。けど、一度、それをやると、品質に対する感覚が、マヒしていくんだ。少しくらいいいだろう、と思ったらすぐ流されるのが人間ってもんだよ」
「分かる気がします」
「山崎さん、今日、何時に事務所についた?」
尾藤の目が少し険しくなった。
「8時ちょうどです。低血圧っぽくって、朝、苦手なんです」
「初日は、何時に来た?」
尾藤の目つきはさらに厳しくなっていた。
「7時40分頃でした」
「なら、低血圧のせいじゃないだろう。遅刻したわけじゃないから、文句は言わないけど、あと5分寝てても大丈夫だって、毎朝思ってないかい?」
「すいません」
「うるさいオヤジで悪いけど、これもあんたのためだ。それと、正直言えば、うちのためでもある。浅野さんの社員に、ヨウザンを分かってもらいたいからな」
「正直言うと、うちの蔵島にも言われたことがあります」
「あの人なら、ちゃんと教えてくれるだろうな」
「やっぱ、そいう感じですか?」
「蔵島さんは、うちのこともパートナーとして扱ってくれる人だよ。一緒に仕事してて気持ちのいい人だね。だけど、山崎さん、同じことを3度言われたらアウトだぞ。遅刻だけの問題じゃない。安きに流されるなってことさ」
「ハイ」
山崎は、反省しながら返事した。
一台の軽トラックが、寸法の足りない一本のパイプを載せて、ヨウザンの工場を後にした。
「ダメなものはダメ。たった一本でも、0.01ミリでもな」
尾藤の言葉を思い出しながら、山崎は白いトラックを見送った。
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2012年2月5日日曜日
俺の名は勘九郎(81)
「寸法公差ってのがあるからな。正規の数値から外れても、決められた範囲なら問題ないんだよ」
「誤差みたいなもんすか?」
「まあそうなんだが、誤差じゃなくて公差だ。公に認められている『差』ってことだ。誤差って言うと、正規品じゃないみたいだろ。浅野さんだって、誤差なんて言葉は使わないはずだよ」
「なんか、習ったような気がします」
「しっかり、覚えていってくれよ。新人さん」
山崎は再び検査台に向かい、計測作業を続けた。
額から流れる汗を、首に巻いたタオルで拭いていると、後ろから生姜のタレで焼かれた肉の匂いが、ふんわりと漂ってきて、口の中に唾液が広がった。通りを挟んだ向かいには、小さな公園があって、少し前に幼い女の子が母親とブランコで遊んでるのが見えた。その親子が木製のベンチの上で弁当を広げ、そこから流れてくる匂いが、元々少ない山崎の集中力を完全に奪い去った。
《あと二本も測れば、昼休みだ》
そんなことを考えながらマイクロメーターのメモリを読むと6.90ミリしか厚みのないパイプがあった。本来の管厚は7.9ミリだから、正規の厚さよりだいぶ薄いのだが、公差でマイナス12.5%までは正規品として認められている。つまり、管の厚さが6.9125ミリまでは正規品となるわけで、一本のパイプが、同じ値段で売れるなら、公差の範囲で極力薄いパイプを作った方が、メーカーとしてはコストを抑えることが出来る。技術力の高いメーカーは、当然、公差の下限値を狙ってパイプをつくるため、6.92や6.93という厚さのパイプも珍しくないのだが、山崎がいくら目をこらしても、6.90としかメモリを読むことができなかった。
《6.92と書いてしまうおうか》
手元の検査表を睨みながら、一瞬そんな風に考えた。めんどくせえなあと思ってしまったからだが、それよりも《ここに6.92と書いたら、問題が起こるのだろうか》という疑問の方が強かった。このパイプが街路灯のポールに利用された場合、それによって生じる問題は何なのだろう、山崎はそれを考えた。
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「誤差みたいなもんすか?」
「まあそうなんだが、誤差じゃなくて公差だ。公に認められている『差』ってことだ。誤差って言うと、正規品じゃないみたいだろ。浅野さんだって、誤差なんて言葉は使わないはずだよ」
「なんか、習ったような気がします」
「しっかり、覚えていってくれよ。新人さん」
山崎は再び検査台に向かい、計測作業を続けた。
額から流れる汗を、首に巻いたタオルで拭いていると、後ろから生姜のタレで焼かれた肉の匂いが、ふんわりと漂ってきて、口の中に唾液が広がった。通りを挟んだ向かいには、小さな公園があって、少し前に幼い女の子が母親とブランコで遊んでるのが見えた。その親子が木製のベンチの上で弁当を広げ、そこから流れてくる匂いが、元々少ない山崎の集中力を完全に奪い去った。
《あと二本も測れば、昼休みだ》
そんなことを考えながらマイクロメーターのメモリを読むと6.90ミリしか厚みのないパイプがあった。本来の管厚は7.9ミリだから、正規の厚さよりだいぶ薄いのだが、公差でマイナス12.5%までは正規品として認められている。つまり、管の厚さが6.9125ミリまでは正規品となるわけで、一本のパイプが、同じ値段で売れるなら、公差の範囲で極力薄いパイプを作った方が、メーカーとしてはコストを抑えることが出来る。技術力の高いメーカーは、当然、公差の下限値を狙ってパイプをつくるため、6.92や6.93という厚さのパイプも珍しくないのだが、山崎がいくら目をこらしても、6.90としかメモリを読むことができなかった。
《6.92と書いてしまうおうか》
手元の検査表を睨みながら、一瞬そんな風に考えた。めんどくせえなあと思ってしまったからだが、それよりも《ここに6.92と書いたら、問題が起こるのだろうか》という疑問の方が強かった。このパイプが街路灯のポールに利用された場合、それによって生じる問題は何なのだろう、山崎はそれを考えた。
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2012年1月9日月曜日
俺の名は勘九郎(80)
「せっかく、研修に来てもらったんだ。ビシビシ鍛えてやるから、覚悟しておくように」
「ひょっとして、代理店から派遣された研修社員だと思ってます?」
「その通り、ってのは冗談だが、しっかり教育して、立派な神様になってもらうよ。うちにいる間は、おれの部下だ。お客様扱いもしないから、覚悟しとけよ」
「ハイ!」
山崎と野々村は、声をそろえた。
「うちの理念と厳しさを知ってもらえば、長く付き合う価値のある会社だと分かってもらえるってことさ」
3日間の座学で、ヨウザンの製品やものづくりの工程を学ぶと、4日目には、工場の安全規則を読まされ、現場で作業する際の安全衛生に関する知識も詰め込まれた。そして5日目から、山崎と野々村は、別々の作業場に配置され、実務に携わることになった。
山崎が連れていかれたのは、ストック・ヤードと呼ばれる部材の受け渡し現場で、パイプや付属の部材などが頻繁に出入りする場所だった。研修ではあったが、山崎に与えられた仕事は、ヨウザンの社員が実際に行っているものと同じで、現場に出て最初の日は、尾藤がとなりについてくれた。外部から搬入される部材は、数が正確にそろっているかを確認する必要があった。また、それらの材料が適切な大きさや形であるかを確認するのもストック・ヤードでの仕事だ。受け入れ検査と呼ばれるその確認作業は、入庫数量の20分の1を抜き取って、実際に寸法を測定する仕事だ。パイプの長さをメジャーで測り、肉厚とよばれる管の厚さは、マイクロメーターという名の特殊な工具で計測した。鉄工問屋から運ばれてくるパイプには、納品書と検査表がついていて、検査表には、一本一本の寸法が記載されていた。
「同じパイプでも、微妙にサイズが違うんですね」
山崎は、ベテランの船越という社員に話しかけた。
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「ひょっとして、代理店から派遣された研修社員だと思ってます?」
「その通り、ってのは冗談だが、しっかり教育して、立派な神様になってもらうよ。うちにいる間は、おれの部下だ。お客様扱いもしないから、覚悟しとけよ」
「ハイ!」
山崎と野々村は、声をそろえた。
「うちの理念と厳しさを知ってもらえば、長く付き合う価値のある会社だと分かってもらえるってことさ」
3日間の座学で、ヨウザンの製品やものづくりの工程を学ぶと、4日目には、工場の安全規則を読まされ、現場で作業する際の安全衛生に関する知識も詰め込まれた。そして5日目から、山崎と野々村は、別々の作業場に配置され、実務に携わることになった。
山崎が連れていかれたのは、ストック・ヤードと呼ばれる部材の受け渡し現場で、パイプや付属の部材などが頻繁に出入りする場所だった。研修ではあったが、山崎に与えられた仕事は、ヨウザンの社員が実際に行っているものと同じで、現場に出て最初の日は、尾藤がとなりについてくれた。外部から搬入される部材は、数が正確にそろっているかを確認する必要があった。また、それらの材料が適切な大きさや形であるかを確認するのもストック・ヤードでの仕事だ。受け入れ検査と呼ばれるその確認作業は、入庫数量の20分の1を抜き取って、実際に寸法を測定する仕事だ。パイプの長さをメジャーで測り、肉厚とよばれる管の厚さは、マイクロメーターという名の特殊な工具で計測した。鉄工問屋から運ばれてくるパイプには、納品書と検査表がついていて、検査表には、一本一本の寸法が記載されていた。
「同じパイプでも、微妙にサイズが違うんですね」
山崎は、ベテランの船越という社員に話しかけた。
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2011年12月17日土曜日
俺の名は勘九郎(79)
「『倹約と変革』が鷹山の改革なんだ。それがうちの社訓にもなっているくらいでね」
「そう言えば『お客様は神様だが、王様ではない』と書いた張り紙がありましたけど、あれも社訓なんですか」
職場の壁に貼ってあったという紙に山崎は気づかなかったが、野々村が尋ねた。
「気づいたかい。あれは先代の社長の言葉でね。浅野さんの人は違うけど、下請けイジメを生きがいにしているような人も結構いるから。先代は、お客様をとても大切にする人だったんだ。けど、下請けをバカにする客がいたら、そんな人を王様のように扱う必要はないって言ってたよ」
「神様ではあるんですか?」
「試練を与えて下さるからね」
「面白い考え方ですね」
「うちの会社じゃないけど、世の中には、元請け企業のことを『代理店さん』って呼んでる会社もあるそうだよ」
「代理店さん?」
「そう。自社商品の販売窓口になってくれる代理店さんと思えば、無理なことを言われても、上から目線でいられるんだとさ」
「へえー、俺もこっそりそう思うことにしよ。これだけでも、研修に来た甲斐があります」
山崎は、ちゃめっけのある目をして笑った。
「続きが楽しみ」と思ったら押して下さい。
「そう言えば『お客様は神様だが、王様ではない』と書いた張り紙がありましたけど、あれも社訓なんですか」
職場の壁に貼ってあったという紙に山崎は気づかなかったが、野々村が尋ねた。
「気づいたかい。あれは先代の社長の言葉でね。浅野さんの人は違うけど、下請けイジメを生きがいにしているような人も結構いるから。先代は、お客様をとても大切にする人だったんだ。けど、下請けをバカにする客がいたら、そんな人を王様のように扱う必要はないって言ってたよ」
「神様ではあるんですか?」
「試練を与えて下さるからね」
「面白い考え方ですね」
「うちの会社じゃないけど、世の中には、元請け企業のことを『代理店さん』って呼んでる会社もあるそうだよ」
「代理店さん?」
「そう。自社商品の販売窓口になってくれる代理店さんと思えば、無理なことを言われても、上から目線でいられるんだとさ」
「へえー、俺もこっそりそう思うことにしよ。これだけでも、研修に来た甲斐があります」
山崎は、ちゃめっけのある目をして笑った。
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2011年12月3日土曜日
俺の名は勘九郎(78)
「専務なんて呼ぶ人はいないよ。社長と社員の間にいるただの工場長さ。尾藤さんと呼んでくれればいい」
尾藤さん、と呼び直した野々村は、ヨウザンの売上高や売上高に占める浅野ソーラーの割合などを聞いた。こいつは、やっぱり経理っぽいな、と思った山崎は、
「ところで、なんでヨウザンってゆう名前なんですか?」
と素朴な疑問を口にした。
「溶接で山も作ってしまう会社、って意味もあるんだけど、本当の由来は、上杉鷹山から来てるんだ」
「上杉ヨウザン? 謙信の子供か誰かっすか?」
「なんだ、大学を出た学士様のくせして、上杉鷹山もしらないのか」
尾藤の目は、山崎から隣の野々村に移っていったが、野々村も照れくさそうに下を向いた。
「全然しりません」
と山崎は元気よく答える。
「最近の若いのは、日本史なんか勉強しないのかね、なんてな。俺だってこの会社に来るまでは、鷹山なんて知らなかったよ。米沢藩の藩主に、上杉鷹山っていう偉い殿さまがいたんだ」
「えっ。上杉って、越後とか新潟とかあっちの方じゃないんすか?」
山崎は、更なる無知を露わにした。
「関ヶ原のあと、いろいろあって、上杉家は米沢に行ったんだな。そこの9代目に鷹山が現れて、藩政を改革したんだよ」
「詳しいですね」
野々村が言うと、社長に聞かされてるから、と答えて尾藤は続けた。
「続きが楽しみ」と思ったら押して下さい。
尾藤さん、と呼び直した野々村は、ヨウザンの売上高や売上高に占める浅野ソーラーの割合などを聞いた。こいつは、やっぱり経理っぽいな、と思った山崎は、
「ところで、なんでヨウザンってゆう名前なんですか?」
と素朴な疑問を口にした。
「溶接で山も作ってしまう会社、って意味もあるんだけど、本当の由来は、上杉鷹山から来てるんだ」
「上杉ヨウザン? 謙信の子供か誰かっすか?」
「なんだ、大学を出た学士様のくせして、上杉鷹山もしらないのか」
尾藤の目は、山崎から隣の野々村に移っていったが、野々村も照れくさそうに下を向いた。
「全然しりません」
と山崎は元気よく答える。
「最近の若いのは、日本史なんか勉強しないのかね、なんてな。俺だってこの会社に来るまでは、鷹山なんて知らなかったよ。米沢藩の藩主に、上杉鷹山っていう偉い殿さまがいたんだ」
「えっ。上杉って、越後とか新潟とかあっちの方じゃないんすか?」
山崎は、更なる無知を露わにした。
「関ヶ原のあと、いろいろあって、上杉家は米沢に行ったんだな。そこの9代目に鷹山が現れて、藩政を改革したんだよ」
「詳しいですね」
野々村が言うと、社長に聞かされてるから、と答えて尾藤は続けた。
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