2010年1月28日木曜日

俺の名は勘九郎(19)

着替えを終えたその人は、段ボールとカバンの中から取り出した新品の青いビニールシートを使って、自分の家をつくりはじめた。ぼくの家の木を含めた2本の木をメインポールの代わりにして、三角のテント小屋を作った。屋根がビニールシートで、床が段ボールのその家は、雨はしのげても風には弱そうだった。シュロの木につるしたハンガーを取り込もうとしたとき、その人はぼくに気がついた。抱きかかえて頭をなでながら、
「今日が俺の公園デビューだ。よろしくな」
とぼくに言った。ホームレスになることを、公園デビューというのかぼくには分からなかったし、その人がどんな人かも分からなかったけど、蒸し暑い夕暮れどきだというのに、その人の腕の中は柔らかで心地よかった。ぼくの喉元の毛を、親指と人差し指で軽く引っ張るようになでながら、彼は言った。
「俺、ヤスベエってんだ。お前の名前は、そうだな…、コタローにしよう」
ぼくは、《やった!》と声を上げたが、ヤスベエには「にゃあ」と聞こえたはずだ。ヤスベエが名前を思い浮かべる前に、ぼくは《コタロー》という念を、ヤスベエに送っていた。彼の意識に、ぼくの念が入り込んだのだ。人間と意思の交換を出来る動物はいないらしいけど、念を送ることで、ヤスベエにメッセージが届いたということは、ある意味で、マタギができたという証拠だ。
「コタロー、俺、ある人の仇をとるために、ここで暮らすことにしたんだ」
浅野という人の仇をとるために、誰かに復讐しようとしていることが、ぼくには分かった。
ぼくの能力が少しずつ高まりはじめているような気がした。


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