2010年1月2日土曜日

俺の名は勘九郎(14)

ウィンディーサニーの最大の強みは、365日、夜の明るさを保証できたところにあった。浅野は全国各地の気象データを集め、太陽光と風力による電力生成バランスを綿密に計算した。そして街路灯の設置ポイント毎に、陽光と風力による発電効率とバッテリー能力を見極め、雨の夜も一定照度の明るさを保証出来るハイブリッド街路灯を完成させた。他社のハイブリッド街路灯は型式ごとの既製品である。雨が続けば電気は消える。

それに対して、ウィンディーサニーは、設置場所毎のオーダーメードだ。製造コストは少し高くついたが「365日、明るい街路」をうたい文句にしている。もちろん想定以上に雨が続けば、ウィンディーサニーにもバッテリー切れは起こる。しかし、初号機を出荷してから10年以上、浅野ソーラー製の街路灯が消えていたという報告は、全国のどこからもこなかった。土地ごとの気象データと街路灯の照度のバランスに関するノウハウは、浅野ソーラーのトップシークレットになり、その情報に接することができるのは、浅野と蔵島の二人だけだった。

街路灯を注文するのは、一般的に市町村などの自治体であることが多い。役所が街路灯を発注する場合、通常は複数の会社による競争入札が行われる。発注仕様書と呼ばれる書類には、本体の高さ、風車の型式、起動に必要な風速などが示されている。街路灯のメーカーは、仕様書を満足する製品を設置しなければならない。その上で、もっとも安い金額を提示した会社が落札業者となる。仕様書の中に「日没から日の出まで、365日、常に45ルクス以上の照度を保証すること」というような文言があれば、それはウィンディーサニーが欲しいという意味になる。その条件を満たせる街路灯メーカーは浅野ソーラー以外になかったからだ。地方の公共事業を監視する目が大らかだったころには、「浅野ソーラー社製のウィンディーサニーと同程度の性能を保証できるもの」という大胆な仕様書さえあった。結果的に他社は、入札を辞退せざるを得ず、浅野ソーラーの売り上げは確実に伸びていった。


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