開発の主体である藤吉不動産や地元の設計コンサルタント、そして建設会社や物流会社などを歩きまわって、山崎は計画の概要をつかんだ。ウィンディーサニーを売り込むべき設計コンサルタント会社の担当者とも親しくなり、一度に100基以上の街路灯を設置できそうな大型プロジェクトに山崎は食い込んだ。
計画が詳細検討の段階に入ると、営業部長だった蔵島も熱心に動き出し、技術部からはエース格の中堅社員が投入された。リゾートランド内を走るメインストリートや周遊道路の計画が固まり、街路灯の配置や機器の概要を決める段階で、山崎は「ウィンディーサニー」と読める内容を、仕様書の原型となる資料に盛り込むことができた。
プロジェクトの概要が地元の住民に説明されたとき、アクセスルートの予定地になっている雑木林には大鷹の巣があるはずだという指摘があった。藤吉不動産の用地買収係は、土地の取得に関する交渉はまとまっているから問題ないと主張したが、自然保護団体の反発を恐れた市の責任者は、鷹の巣が見つかったら、周遊道路のルートを再検討すると約束した。
やがて大鷹の営巣が確認され、別のルート探しが始まったのだが、そうこうするうちに、景気後退がささやかれ始めた。「いざなぎ景気を超える戦後最長の好景気」と発表されていた景気は「格差景気」とも呼ばれ、浮かれた気分のまったくない好況はいつの間にか幕を閉じていた。勝ち組だった藤吉不動産の社内でも、不況に向かう時期のリゾート開発は中止すべきだという声が強くなり、結局、リゾートランドプランは、いったん凍結されることになってしまった。
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2011年7月18日月曜日
2011年7月3日日曜日
俺の名は勘九郎(67)
市役所の会議室に二人きりだったので、つい気安くなりがちだったが、それでも蔵島や部内の先輩としゃべるときよりはいくぶん気を使いながら、山崎は話した。
「はあ・・・?」
いきなり何を言い出すのかという顔の神田に、山崎はシャワールームのカーテンが尻にペタリと張り付く現象のことを説明した。
「ああ、それなら『ベルヌーイの定理』で説明できるんじゃないかな」
「エッ!もう誰かが発見しちゃってる法則なんですか?」
「スイスの人だったかな。シャワーを出すと空気の流れるスピードが変わるから、それが気圧に影響して起こる現象だと思うけど、気になるんだったら、調べてみなよ」
「そうだったんですか。世紀の大発見かと思ったのに。」
「江戸時代に生まれてたら、山崎さんの名前が物理の法則に付いてたかもしれないね」
「いや、ビジネスホテルがないと無理なんで、江戸時代じゃダメだったと思います」
「ハハハ、もっともだ」
「それより神田さん、さっき言ってたリゾートランドプランでしたっけ?それって観光地開発かなんかですか?」
「山崎さーん、営業マンなんだから、そこにすぐ食いつかないと」
「すいません。昨日の夜からずっと興奮してたもんで」
「しょうがないなあ。平成のベルヌーイに敬意を表して、教えてあげようか」
そう言って神田は、F市が計画しているリゾートランドプランのヒントを山崎に教えた。それはまだ具体化する前の段階だったが、山崎は初めて自分の手で掴みつつある都市開発の情報に、もう一度胸を震わせた。
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いきなり何を言い出すのかという顔の神田に、山崎はシャワールームのカーテンが尻にペタリと張り付く現象のことを説明した。
「ああ、それなら『ベルヌーイの定理』で説明できるんじゃないかな」
「エッ!もう誰かが発見しちゃってる法則なんですか?」
「スイスの人だったかな。シャワーを出すと空気の流れるスピードが変わるから、それが気圧に影響して起こる現象だと思うけど、気になるんだったら、調べてみなよ」
「そうだったんですか。世紀の大発見かと思ったのに。」
「江戸時代に生まれてたら、山崎さんの名前が物理の法則に付いてたかもしれないね」
「いや、ビジネスホテルがないと無理なんで、江戸時代じゃダメだったと思います」
「ハハハ、もっともだ」
「それより神田さん、さっき言ってたリゾートランドプランでしたっけ?それって観光地開発かなんかですか?」
「山崎さーん、営業マンなんだから、そこにすぐ食いつかないと」
「すいません。昨日の夜からずっと興奮してたもんで」
「しょうがないなあ。平成のベルヌーイに敬意を表して、教えてあげようか」
そう言って神田は、F市が計画しているリゾートランドプランのヒントを山崎に教えた。それはまだ具体化する前の段階だったが、山崎は初めて自分の手で掴みつつある都市開発の情報に、もう一度胸を震わせた。
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2011年6月22日水曜日
俺の名は勘九郎(66)
「ウィンディーサニーにシャワー機能を取りつければ、エアーダストが吸い寄せられて空気がきれいになります」
まったく売れそうにないと思った山崎は、商品化も他人に任せようと思いなおした。誰かの力を借りて、なんとか物理の法則を証明したい。それだけが偉大な人間として名を残せる道だと思い、一人でにんまりとした。
興奮の余韻があって、翌日の山崎は饒舌だった。補修費用の件を施設整備課の担当者に報告すると、前夜にチェックした「街路灯ニーズマップ」を見せて熱心に説明した。
「お金があれば、ウィンディーサニーをどんどん置きたいんだけどねえ。うちは貧乏な市だから」
坊主刈りに近い短髪の頭をなでながら、施設整備課の神田は山崎に答えた。大学院の土木科を卒業した神田は施設の維持管理をする担当者で、当時の山崎より六つ年上だった。駅前のメインストリートには、浅野ソーラーが納めた8台の街路灯がある。メンテナンス契約もあって、山崎は年に数回、F市に足を運んだ。神田とは二人で酒を飲み、2次会のスナックではコブクロを一緒に歌うこともある仲だった。業者と発注者ではなく、二人で飲むときは割り勘にする人間関係ができていた。
「ところで神田さん、昨日の夜、すごいことに気づいちゃったんですけど、ちょっと教えてもらっていいですか」
「なに?ひょっとしてリゾートランドプランの関係?」
山崎は、何のことだろうと一瞬思ったが、世紀の大発見について話さずにはいられなかった。
「新しい物理の法則を発見したんですよ。『落下中の物体には、他の物体を吸い寄せる力がある』っていう法則なんですけど、こういうのを証明するのって専門的な実験とか必要なんですよねえ」
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まったく売れそうにないと思った山崎は、商品化も他人に任せようと思いなおした。誰かの力を借りて、なんとか物理の法則を証明したい。それだけが偉大な人間として名を残せる道だと思い、一人でにんまりとした。
興奮の余韻があって、翌日の山崎は饒舌だった。補修費用の件を施設整備課の担当者に報告すると、前夜にチェックした「街路灯ニーズマップ」を見せて熱心に説明した。
「お金があれば、ウィンディーサニーをどんどん置きたいんだけどねえ。うちは貧乏な市だから」
坊主刈りに近い短髪の頭をなでながら、施設整備課の神田は山崎に答えた。大学院の土木科を卒業した神田は施設の維持管理をする担当者で、当時の山崎より六つ年上だった。駅前のメインストリートには、浅野ソーラーが納めた8台の街路灯がある。メンテナンス契約もあって、山崎は年に数回、F市に足を運んだ。神田とは二人で酒を飲み、2次会のスナックではコブクロを一緒に歌うこともある仲だった。業者と発注者ではなく、二人で飲むときは割り勘にする人間関係ができていた。
「ところで神田さん、昨日の夜、すごいことに気づいちゃったんですけど、ちょっと教えてもらっていいですか」
「なに?ひょっとしてリゾートランドプランの関係?」
山崎は、何のことだろうと一瞬思ったが、世紀の大発見について話さずにはいられなかった。
「新しい物理の法則を発見したんですよ。『落下中の物体には、他の物体を吸い寄せる力がある』っていう法則なんですけど、こういうのを証明するのって専門的な実験とか必要なんですよねえ」
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2011年6月12日日曜日
俺の名は勘九郎(65)
山梨県にあるF市の市街地から郊外のレジャー施設をつなぐ新しい道路ができることを真っ先に聞きつけたのが山崎で、それは当時の浅野ソーラーにとって、久しぶりの大型案件になるはずだった。
最初山崎は、新しい道路の話を聞くためにF市に出張したのではなかった。別な道路にあったウィンディーサニーがトラックとの接触により損傷したので、山崎は補修の費用を説明するために、F市へ出向いたのだ。市の担当者とのアポイントは、朝の11時だったが、山崎は前の晩、市に入り、夜のうちに街の灯りを調べて歩いた。人通りがあるわりに、明かりの少ない場所をチェックしては、用意していた地図にマークを書き込んだ。単独で出張する機会の少ない山崎だったが、上司がいなくても、生真面目に仕事をした。
ひと通り調査を終えると夜の10時を過ぎていて、ホテルのレストランが終了していることを心配した山崎は、コンビニで弁当とビールを1本買って、チェックインした。部屋に入りカバンを机に置くと、すぐに服を脱いだ。ビジネスホテルの狭いユニットバスでシャワーを勢いよく流すと、浴槽の内側に落としたビニールの薄いカーテンが、尻にピタっとくっついて、うっとうしいな、といつものように思った。うっとうしいと思うだけならいつもと変わりないのだが、そのときの山崎には「なぜ」という疑問があった。シャワーの水流が弱いとカーテンはレールから真下に垂れるのに、勢いよくお湯を出すとその薄いビニールは尻のあたりにへばりつく。何度繰り返しても同じ現象が起こった。
山崎は「万有引力」という言葉を思い出した。「落下中の物体は、それ自体が引力を持つ」山崎はそんな仮説を思いつき、風呂の中で興奮した。地面に落ちるリンゴを見てニュートンが万有引力の法則を発見したように、尻につくカーテンを見て、「落下物に生じる一時的な引力の法則」を発見したのかもしれない。山崎は、偉大な物理学者になったような気がして、どうすればその法則を証明できるだろうと考えた。弁当を平らげ、ビールを飲み干したとき、何を食ったのか分からないほど真剣だった。しかし、いくら考えても法学部出身の山崎には、証明の方法が分からなかった。しかたがないので、山崎はその法則を利用して実用品を発明しようと頭を切り替えた。
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ひと通り調査を終えると夜の10時を過ぎていて、ホテルのレストランが終了していることを心配した山崎は、コンビニで弁当とビールを1本買って、チェックインした。部屋に入りカバンを机に置くと、すぐに服を脱いだ。ビジネスホテルの狭いユニットバスでシャワーを勢いよく流すと、浴槽の内側に落としたビニールの薄いカーテンが、尻にピタっとくっついて、うっとうしいな、といつものように思った。うっとうしいと思うだけならいつもと変わりないのだが、そのときの山崎には「なぜ」という疑問があった。シャワーの水流が弱いとカーテンはレールから真下に垂れるのに、勢いよくお湯を出すとその薄いビニールは尻のあたりにへばりつく。何度繰り返しても同じ現象が起こった。
山崎は「万有引力」という言葉を思い出した。「落下中の物体は、それ自体が引力を持つ」山崎はそんな仮説を思いつき、風呂の中で興奮した。地面に落ちるリンゴを見てニュートンが万有引力の法則を発見したように、尻につくカーテンを見て、「落下物に生じる一時的な引力の法則」を発見したのかもしれない。山崎は、偉大な物理学者になったような気がして、どうすればその法則を証明できるだろうと考えた。弁当を平らげ、ビールを飲み干したとき、何を食ったのか分からないほど真剣だった。しかし、いくら考えても法学部出身の山崎には、証明の方法が分からなかった。しかたがないので、山崎はその法則を利用して実用品を発明しようと頭を切り替えた。
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2011年5月31日火曜日
俺の名は勘九郎(64)
「私のブログでケンカしないで。だいたい、授業中はカキコしない約束でしょ」と千葉が書いたのは、その日の夜のことだ。スージーにはムリと、猪俣が書いたのが、11:03で、30分後には川田が「決めつけないでよ」とコメントしていた。千葉だけが、自宅に帰るまで、そのページにアクセスしなかったのだ。
それを見た猪俣は、ルール違反を承知で千葉の携帯に電話をかけた。3人で集まることを提案したが、千葉は承服しなかった。千葉の社内で、談合が問題になりだしたというのだ。
九
俺はハンの能力に舌を巻いた。山崎の机から蔵島のポケットに移りたったの3ヶ月で、ハンはあらゆる物質の潜在的な記憶を探っていた。そうやって浅野が死んだ後のことを丹念に調べた。
ハンは過去の出来事もよく覚えていて、F市のプロジェクトというやつに山崎が入れ込んでいた理由についてもよく知っていた。その仕事に関しては、ずいぶんと山崎が熱心なことを俺は不思議に思っていたのだが、ハンの話を聞いて納得した。
F市のプロジェクトが再始動する、と山崎が聞いたのは、猪俣による談合が始まってしばらく経ってからのことだ。山崎は久しぶりに奮い立つ気持ちになった。その仕事は、山崎の情報がきっかけとなって、浅野ソーラーが食い込んだ案件で、建設予定のリゾートランドから市街地エリアまで、130基もの街路灯が整備されるビッグプロジェクトだった。
プロジェクトの計画が最初に持ち上がったのは、山崎が入社して3年目になる春のことだった。
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九
俺はハンの能力に舌を巻いた。山崎の机から蔵島のポケットに移りたったの3ヶ月で、ハンはあらゆる物質の潜在的な記憶を探っていた。そうやって浅野が死んだ後のことを丹念に調べた。
ハンは過去の出来事もよく覚えていて、F市のプロジェクトというやつに山崎が入れ込んでいた理由についてもよく知っていた。その仕事に関しては、ずいぶんと山崎が熱心なことを俺は不思議に思っていたのだが、ハンの話を聞いて納得した。
F市のプロジェクトが再始動する、と山崎が聞いたのは、猪俣による談合が始まってしばらく経ってからのことだ。山崎は久しぶりに奮い立つ気持ちになった。その仕事は、山崎の情報がきっかけとなって、浅野ソーラーが食い込んだ案件で、建設予定のリゾートランドから市街地エリアまで、130基もの街路灯が整備されるビッグプロジェクトだった。
プロジェクトの計画が最初に持ち上がったのは、山崎が入社して3年目になる春のことだった。
「続きが楽しみ」と思ったら押して下さい。
2011年5月8日日曜日
俺の名は勘九郎(63)
F市が現場説明会を行ったのは9月10日のことで、朝夕に虫の音が聞こえ始めた頃だが、猛威をふるった夏の勢いが少しも衰えない夏の終わりのことだった。「現説」と呼ばれるその説明会に出席したのは山崎で、猪俣が入札仕様書に眼を通したのは翌日だった。
「うちの技術で対応できるのか?」
部長席の隣にある小さな会議テーブルの向かいに座る山崎に、猪俣が聞いた。
「問題ありません」
「技術に言って、すぐにコストをはじかせろ」
「昨日、頼みました。ですけど、やる意味あるのかって聞かれました」
談合で他社が取ることに決まっているのなら、技術部としては余計な手間をかけたくないのだ。
「黙ってやらせろ」
山崎は素直にうなずいた。談合の仕組みを知らない山崎は、浅野ソーラーが仕事をとる順番なのだと理解してほっとした。そのプロジェクトは山崎にとっても思い入れの深い仕事だったからだ。
猪俣はすぐにデスクトップのキーボードを叩き、ミカりん日記を開いた。最新投稿を見ると、タイトルには「自由行動」とあって、コメントには「次の日曜日は、自由行動にしよう!」と書かれていた。日曜日とは「入札」を示す隠語で、千葉は、その案件を談合の対象から外そうと提案しているのだ。しかし、そのすぐ下にスージーのコメントがあり「私は予定通りがいいな。それが友情じゃない?」と書かれていた。猪俣はコメントの時間が記録されてしまうことを少しためらったが、「私は、ミカリンに賛成。スージーにはムリだと思う」と書いた。すると今度は「勝手に決めつけないでよ」と、川田がすぐに書き込んだ。
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部長席の隣にある小さな会議テーブルの向かいに座る山崎に、猪俣が聞いた。
「問題ありません」
「技術に言って、すぐにコストをはじかせろ」
「昨日、頼みました。ですけど、やる意味あるのかって聞かれました」
談合で他社が取ることに決まっているのなら、技術部としては余計な手間をかけたくないのだ。
「黙ってやらせろ」
山崎は素直にうなずいた。談合の仕組みを知らない山崎は、浅野ソーラーが仕事をとる順番なのだと理解してほっとした。そのプロジェクトは山崎にとっても思い入れの深い仕事だったからだ。
猪俣はすぐにデスクトップのキーボードを叩き、ミカりん日記を開いた。最新投稿を見ると、タイトルには「自由行動」とあって、コメントには「次の日曜日は、自由行動にしよう!」と書かれていた。日曜日とは「入札」を示す隠語で、千葉は、その案件を談合の対象から外そうと提案しているのだ。しかし、そのすぐ下にスージーのコメントがあり「私は予定通りがいいな。それが友情じゃない?」と書かれていた。猪俣はコメントの時間が記録されてしまうことを少しためらったが、「私は、ミカリンに賛成。スージーにはムリだと思う」と書いた。すると今度は「勝手に決めつけないでよ」と、川田がすぐに書き込んだ。
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2011年5月3日火曜日
俺の名は勘九郎(62)
「談合していることは社内でも極秘にしておけ」
「無駄ですよ。技術部がつくったコストを無視して入札することだってあるんですから。100万で作れるものを200万円で入札したら、仕事は取れません。そんなことが続けば、誰でも談合していると思うでしょう」
「解説されなくても分かっとる。田中は俺が抑えてやるから、あとのヤツには四の五の言わせるな」
「出来るだけやってみます」
猪俣はそう答えたが、やがて談合は公然の秘密になっていった。
初めのうち、談合のシステムは村上製作所の千葉が描いたとおりに進行した。浅野、村上、鳥海の順で一巡目を受注したあとは、累計受注金額の一番少ない会社が次の受注者となるルールで、議論の必要はなかった。ところが7回目となる入札の仕様書を読んだとき、猪俣は首をひねってしまった。山梨県のF市が用意した発注仕様書は、開発要素の多い内容で、標準品のどのタイプにも該当しないものだった。また、合計130基の街灯を一度に整備する大規模プロジェクトで、どの会社にとっても魅力的な案件だった。談合の順番から言えば、それは鳥海ウィンドパワーが受注するはずなのだが、鳥海の技術力では対応が難しいだろうと猪俣は思った。
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「解説されなくても分かっとる。田中は俺が抑えてやるから、あとのヤツには四の五の言わせるな」
「出来るだけやってみます」
猪俣はそう答えたが、やがて談合は公然の秘密になっていった。
初めのうち、談合のシステムは村上製作所の千葉が描いたとおりに進行した。浅野、村上、鳥海の順で一巡目を受注したあとは、累計受注金額の一番少ない会社が次の受注者となるルールで、議論の必要はなかった。ところが7回目となる入札の仕様書を読んだとき、猪俣は首をひねってしまった。山梨県のF市が用意した発注仕様書は、開発要素の多い内容で、標準品のどのタイプにも該当しないものだった。また、合計130基の街灯を一度に整備する大規模プロジェクトで、どの会社にとっても魅力的な案件だった。談合の順番から言えば、それは鳥海ウィンドパワーが受注するはずなのだが、鳥海の技術力では対応が難しいだろうと猪俣は思った。
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