2009年11月13日金曜日

俺の名は勘九郎(5)

キトの交換能力がどのレベルにあるのかは分からない。しかし、いきなり俺に向かって開いてきたということは、まだマタギの初心者なのだろう。開くというのは、自分の意識を開放して、相手に話しかけることだ。意思の交換は、感情を開いたり閉じたりして行うものだ。俺がキトに何か言いたければ、俺はキトに向けて感情を開く。考えていることを知られたくないときや、相手の声を聞きたくなければ、閉じれていればいい。中には閉じたり開いたりが出来ないやつもいる。無生物は基本的に、ずっと閉じている。だから、自分たちがしゃべれるということを知らない。黙っている分には、バカには見えないから、沈黙は金というのも、あながち間違いとは言い切れない。逆に四六時中開きっぱなしのやつもいる。山崎が水槽の中で飼っているミドリガメがそうだ。《腹が減った。暇だ。眠い》あいつの頭の中にあるのは、たいがいこの三つだ。お経のようにそればかり繰り返している。餌を食って暇になると、すぐに寝てしまうやつだ。腹が減った以外の言葉は不要だ。一度カメにそうツッコんでみたが、「おや?」という顔をしただけで、またお経が始まってしまった。うるさくて仕方ないので、すぐに閉じた。以来、カメの思考に対して開いたことはない。


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