2009年11月23日月曜日

俺の名は勘九郎(7)

俺たちと意思の交換ができる人間には、会ったことがない。言葉に頼る人間は、ミドリガメと同じで、年中開きっぱなしのやつが多い。だから、人間の言葉が嘘ばかりだということを、俺は知っている。例えば、出社したときの山崎は、上司や同僚から「おはよう」と声をかけられる。気持ちのいい朝だね、という意味でおはようと言っている人間はほとんどいない。上司は《そんな顔で会社にきやがって、昨日の夜は、何時まで飲んでいたんだ?》と思っているし、目の前の女の子は《ネクタイは違うけど、昨日と同じシャツ。この人、また外泊かしら?》と思いながら、おはようと声をかける。それを直接聞かないのが人間の習性なのかもしれない。
初対面の女を俺に紹介することもなく、山崎が女に聞いた。
「ワインと氷結、どっちにする?」
半透明のビニール袋から、コンビニで買ってきた安ワインとロング缶のチュウハイを、山崎が取り出した。
「氷結かな」
と女は一応答える。全開の山崎の感情から漏れてくるのは、《はやく、やりてえ》の一色だ。ちなみに、氷結かな、と答えた女の心理はどうであろか。こちらも、早速、開いていた…。



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