2009年11月5日木曜日

俺の名は勘九郎(3)

マタぐ、というのは、種族間をまたいで意思疎通できるということだ。普通は、ネコならネコ同士、カラスはカラス同士でしか会話できない。ネコにはネコ語。カラスはカラス語、というわけだ。マタげない連中にとって、ネコの言葉はニャアだし、カラスはカアだ。ところが、少し出来のいいやつになると、種族間をまたいで意思を交換することができる。さらに出来るやつは、植物とだって意思交換する。葉っぱにだって、命はあるのだ。そして俺くらいのレベルになると、石ころとだって交換できる。もちろん意思の交換、ということだ。「石の意思」なんてベタなことを、俺は言わない。したがって、プラスチックとだって鉄とだって、交換は可能だ。宇宙の始まりはカオスで、有も無も、生も死も、一体だということを知っていれば、鉱物にも意思があることくらい想像がつく。その仮説に自信はあったが、実践にはかなり苦労した。無生物の連中も、目の前で起きたことを理解しているし、記憶もしている。しかし、ほとんどのやつは、自分がしゃべれる事をしらない。聞く耳があることを知らない。だから、こっちからマタいで行くと、えらく驚かれる。しょんべんで目を覚ました冬眠中のカエルが、となりで寝ている蛇に気づいてしまったときのような顔をする。考えてみれば、やつらにとってはファーストコンタクトだ。それくらいの衝撃があってもよろしい。俺が、おい、と声をかけてやっても、連中はそれがカラスの意思だとは思えない。だれに返事をしていいのか分からず、キョトンとしている。ひょっとしたら、天の声か何かと勘違いしているのかもしれないと考えたこともあった。所詮、しゃべることは出来ないのだと思っていた。


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